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三樹も、宿さんとの待ち合わせがあったので、いったんはPHSの着信をスルーした。
(和泉または、さくら頼む!)
そしたら、もう一度ピッチが鳴った。
(もう一周したのかい……!)
このときの三樹は、二度目の呼び出しの重さと、宿さんとの待ち合わせを天秤にかけて、前者をとった。
(宿さん、すみません!お先に飲み始めててください!)
ピッチを切ると、三樹の瞳がキラリと光った。
彼女の周囲に、一陣の風が巻き起こる。
おっさんのヅラが吹っ飛ぶし、女の子のミニスカートがヒラリとして「キャッ」てなる。
次の瞬間、三樹の姿は消えていた。
現場へは、瞬間移動するシステムだ。便利である。説明もいらない。
その間にOLレンジャーのユニフォームに変わっている。その過程は割愛させて頂く。
三樹が到着したのは、落ち着いた雰囲気のある、洒落た外観のレストランの前だった。テレビでも紹介されるような有名な店だ。デートで行きたい店ランキングでも上位になっていたはず。
(チッ!こんな店来たこともない!)
心の中で舌打ちをする。
デートらしいカップルから、SNSで女子会アピールをしたいらしいグループやら、そんな人たちが店の入り口から行列を作っていた。その一角がざわついている。
呼び出しの内容は、なんということはない、人気レストランの行列の割り込みだった。
たまたま、行列に知り合いがいたので、図々しく横入りしようとしていたのだ。見ると、どこにでもいるようなアラフォーの女だ。
ただ、気合いの入ったメイクとファッション。何かしらの約束をドタキャンされたのだろう。
三樹はすぐに技に入った。考えている暇はない。宿さんとの約束があるのだ。
(酒だ、酒!)
お決まりのポーズをとる。両手を握りしめ、額の前でクロスさせるというものだ。
そして、高らかに叫ぶ。
「サービス残業ハリケーン!」
突如として、三樹の周囲に一陣の風が巻き起こった……!




