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ちなみに、今日、OLオレンジこと和泉は、楽天スーパーセールのためにパソコンに向かっていた。
いろいろなショップを買い回ることによって、どんどんポイント率が上がっていくシステムなので、この日のために買い物を控えていたのだ。
本気度が違う。本気と書いてマジだ。
多摩川家のやりくりを任されている彼女は、ここぞとばかりに米を買ったり、保存の効く食品を買ったりする。このために、彼女は明晰な頭脳を駆使して、多方面から綿密な計算をしてきたのだ。
目を付けていた品物は、すでにお気に入りに登録してあった。凄まじい気迫である。
和泉は、独身で実家暮らしをしている。そして食事の支度が、彼女の主な役目だった。
というのも、彼女の母親は、料理のレシピに関して、ひとくオリジナリティーが強いのだ。分かりやすく言うと「味音痴」だった。そのため、まともな料理ができない。
姉のちとせも、残念なことに母に似てしまった。
父は料理などしたことがないが、味覚は正常だった。和泉の味覚は、運よく父親に似た。
だから、和泉が子供のころから、多摩川家のお勝手を任されていた。
子供の頃の和泉。
よく見るテレビはアニメでもバラエティでもなく料理番組だった。
りぼんやマーガレットを読む代わりに、NHK出版の料理本などを読んでいた。市の図書館に行けば、いくらでも読むことができた。
最初はメモを取ったりしていたが、熟読しているうちに覚えられるようになっていった。ついでに漢字も覚えた。子供向けの、可愛いイラストなどが入った料理本もあったが、和泉には物足りなかった。
こんなに真剣に、大人向けの料理本を読み込む女子小学生は珍しかったことだろう。見ず知らずの大人たちの好奇の視線を感じることはあったが、和泉は気にしなかった。母から料理を教わる望みがなかったので、自分で学ぶしかなかったのだ。
それが、気が付いたときには、お勝手どころか、家計そのものが、和泉の管理するところとなっていた。和泉が実家にいるのは、無駄遣いをしたくないため、というのもあった。
それ以上に、両親の、とくに父のためでもあった。母にお勝手を任せていたら、父の中性脂肪だとか、いろいろが心配になる。
ちなみに、姉のちとせは、早々に玉の輿に乗って、今はお手伝いさんがいるし、夫も料理が好きらしい。なんと都合のいい結婚をしたものだろうか。
おっとりとして何も考えていなそうな姉だったが、自分のスタンスをよく分かっていたらしい。清楚で控えめな雰囲気の見た目も、大いに利用したに違いない。
生意気盛りの甥っ子と姪っ子がいるのだが、子供慣れしていない和泉は、いつも手を焼かされていた。
それはさておき。
この日はパソコンで忙しかった。そして大切なタイムセールがあった。だからレンジャーの呼び出しに応える訳にはいかなかった。




