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この夜の待ち合わせは、オフィスの最寄り駅である地下鉄の駅から歩いて数分の酒場だった。女子会御用達のダイニングバー的なこじゃれた店ではない。ショーケースにパフェやスパゲッティ、お子様ランチなどの食品サンプルが置いてあるような、レトロな雰囲気の店だ。
いつ行っても、沢山の客で賑わっている。会社勤めやカップルや、いろいろな人たちが、めいめい楽しげに喋りながら飲んだり食べたりしている。タイミングによっては席が埋まってしまっていることもある、人気の店だった。
待ち合わせの時間から、だいぶ遅れてしまった。三樹が足早に店内に入ると、壁際の二人掛けのテーブルのところで、宿さんはすでに飲んでいた。
ビアジョッキと小さなグラスを並べている。三樹に気付くと、ひらひらと手を振ってよこした。機嫌はいいようだ。つまり、これが最初のドリンクではないということの証明でもあった。
「すみません!遅くなりました!」
深々と頭を下げる三樹。
「なに?さっそく良いことしてきた?だったら、もっと遅くても良かったのにぃ」
と、宿さんがにやけた。
同じ女と思えない。女の皮をかぶったオヤジだ。キレイな人なのに……。
「なにバカなこと言ってるんですか。そんなわけないでしょ」
宿さんの向かいの席に三樹が腰かける。宿さんはビールを飲みながら、
「そうよね、あんたはそんなことができる女じゃないわ」
と、面白そうに言った。
「分かってるなら言わないでください」
三樹が顔をしかめ、宿さんが、
「ごめんごめん。怒らないの!」
と、三樹の頬をつついた。宿さんがニッコリとして見せ、三樹ももう顔をしかめていられなくなった。かと思えば、宿さんは通りかかった店員を呼び止め、「同じものでいいよね」と三樹に言った。
「はい!」
お手本級の返事をする三樹。
ほどなくして、宿さんと同じ飲み物のセットが運ばれてきた。ビールに、電気ブランという組み合わせで、もちろん両方ともアルコールを含んでいる。つまり、アルコールをチェイサーにして、それよりも強いアルコールを飲むということなのだった。
「今夜は飲むよ!」
「望むところです!」
さて……。
どうして三樹が待ち合わせに遅れたかというと、会社勤めとは別のお仕事があったからだ。
それはOLレンジャーとしての職務……。
OLレンジャーの一員、OLピンクとして、ちっちゃな悪をこらしめてきたのである。




