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デスクに戻ると、スマホにショートメールが着信していた。送信者を見て、三樹は目を細めた。
「宿さん」
三樹の大学の先輩であり、会社の先輩でもある。タイトルはなし。
(なんだろう、急に用事でもあるのかな?)
メールを開くと、たった一行。
「いい男が来たんだって?」
(無視!)
宿さんは既婚者である。それなのに、いい男となったら、誰よりも食いついてくる。
「紹介せい!」
などと言ってくる。
だからといって不倫に走っている様子も見受けられない。結局なにがしたいのだろうか。そのあたりが、男性経験の少ない三樹には想像できない。
でも、このメールを見て、また桐生の顔を思い出してしまった。
さわやかな笑顔、きりっと引き締まった体型に、すらっと決まったスーツ姿。セクシーである。
(セクシーという言葉が脳裏に浮かんだだけでヤバい)
にやつく三樹。
(三十代半ばくらいかな?年上かぁ……)
三樹の好みの男は、年上で頼りがいのあり、心の広い人である。
ただアラサーとなった今日この頃、年上のそういうタイプの男を見ると、たいがい結婚済みだった。几帳面に左手薬指にシンプルな指輪をしている。
それを見るたびに、
(だよねー)
と思う。
むしろ、こういう人だから結婚しちゃっているのだ。はいゲームオーバーです。
「いい男はすぐに売れちゃうのよ?」
と、いつだったか、宿さんが言っていた。
自分が結婚しているからといって、それをネタに三樹をいじって楽しんでいるのだ。しょうがない先輩である。
するとまた、スマホが立て続けにショートメールの受信をしらせた。もちろん、宿さんからである。
「無視か」バレている。
「今夜、報告するように」
(えー?洗濯物とりこまなきゃいけないのにぃ……)
と、こういうときばかり家事を引き合いに出す。普段は手抜きのくせに。あわよくば、ベランダから取り込んで、そのまま着たりするくせに。
またショートメール受信。
「業務命令。社畜は絶対服従せよ」
三樹は呆れてため息をついた。
(他部署のくせに!)
業務命令もあったものではない。
でも、久しぶりに宿さんとさしで行くのも良いかなという気がしてきた。桐生の話で、人目もはばからずに、キャッキャと盛り上がりたい気持ちもある。
そして、ベランダに干しっぱなしの洗濯物に、心の中で、明日の夜には取り込むから……と言った。明日の朝ではないところがミソである。
三樹は、スマホのメールアプリを立ち上げると、素早く文章を入力して送信した。
「了解しました。さっきのメールはパワハラですよ」
するとまたメール受信。
「難しい言葉はワカリマセン」
もう笑うしかなかった。




