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怪傑!OLレンジャー☆ごくごく普通の働き女子が迷惑なあいつをこらしめる!  作者: 高山流水(高山シオン)
いきなりの颯爽イケメン登場で三樹の目がハート!
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「おはようございます」


 心なしか、いつもよりも機嫌が良さそうな上司の声がして、三樹を現実に引き戻した。


「おはようございます!」


 いつもの流れで返事をしつつも、社員たちの興味は、おのずと輝くばかりにハンサムな新しい仲間に集中していた。その隣に立っている見慣れたオッサン上司が、すっかり引き立て役である。


「紹介します。今日からこちらに配属になりました桐生修一くんです。自己紹介をどうぞ」


 すると、自己紹介を促された桐生は、喉の調子を確かめるように、ひかえめな咳払いをした。それから、みなの注目に気が付いたらしく、少し照れたような微笑を浮かべた。


(やばい。これ、やばいのが来ちゃったよ?)

(さわやかで男らしくて、その上、ちょっと可愛いなんて……!)

(萌え……!……て最近あんまり聞かない気がするけど気のせい……?)

(キュンです……!)


 老いも若きも乙女心が撃ち抜かれてしまったらしく、浮足立った雰囲気になった。

 ルパン三世の仲間の次元大介よりも、名探偵コナンの異次元のスナイパーよりも、ゴルゴ13よりも、誰よりも凄腕のハンターだ。


 ズキューン……。


 ただ残念なことに、ステキな男性に対して免疫不全を起こし気味な三樹は、もうまともに顔も拝めない状況に陥った。


 ちょっとでも油断をすると、頭の中に勝手にあふれ出してくる……。


 めくるめく少女マンガのようなキスシーン!背景に咲き誇る無数のバラ!そして、よく分からない点々の描写がそこかしこに……!


 桐生の顔を少しでも見ようものなら、それだけで心臓が跳ねた。同時に訪れる軽い呼吸困難。まるで陸に上げられた魚。エラ呼吸の私には、地上では呼吸ができません……!酸素を……酸素をください……。


 まともに桐生の顔を見る勇気など出ない。ギリギリ視界の端にとらえることができたとしても、目を合わせるなど、もってのほかだった。もはや、目が合ったら石になってしまいそうだ。まさかメデューサか。バカバカしいことを考えて、なんとか正気を保とうとする三樹の耳に、自己紹介をする桐生の声が、ゆっくりと流れ込んできた。


(なんて、いい声。心地いい声……)

(やばい、ほんとうにやばい……!)

(こんな声で、そっと耳元で囁かれたら……あぁ、ダメ……、何も……何も拒めない……)


 めくるめく少女漫画的な妄想にも、ついにボカシが入ってしまった。というのも、完全にのぼせ上った三樹の頭のせいだ。どこぞの温泉地のように、もうもうと湯気が吹き出しそうだ。


「よろしくお願いします」

 桐生が言った。そして、きびきびと清々しい一礼をした。彼の顔が見えなくなったので、三樹も安心してその姿を見ることができた。そして、しっかりと見とれた。


 結局、彼がどんな挨拶をしたのか、三樹の耳には何一つ入ってこなかった。ただ、ひたすらに良い声だった。好きな声だった。


 社員たちが、いっせいに拍手をする。三樹も、つられるようにして拍手をした。なんとなく、和やかな雰囲気になり、三樹も少しだけ緊張が解けたのを感じた。あちこちで話し声があがり、桐生に話しかける者もいて、和気あいあいとした雰囲気になってきた。そこで、三樹も何気なく桐生を見た。


 次の瞬間、三樹の心臓が口から飛び出そうになった。


 桐生と、ばっちり目が合ってしまったのだ。三樹は、驚いたあまり目をそらしてしまった。それから、おずおずと、もう一度、桐生の顔を見てみた。やはり、目が合った。


(え?どうして?)


 今日、二回目の思考停止。目をそらすこともできない。


 桐生が微笑んでいる。その唇が、「よろしく」と言ったような気がした。


(どうして、私に?)


 誰かが桐生に話しかけ、桐生がそちらを振り返る。その仕草がスローモーションに見える。淡い光をまとった残像が見えるようだった。


「さあ、みなさん!」


 上司が上機嫌で言い、三樹は再び我に返った。


「では今日も一日がんばりましょう!」


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