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「それにしても、すごい車だったね。ぴっかぴかの黒塗り。あれ何?外車?」
「えー?知らないですぅ。あたし、車に興味ないし!」
ヒガシ君と水沢が盛り上がっている。
三樹は両手を使って、水沢杏の父親が所有しているらしい車のサイズをイメージした。
先ほどヒガシ君がゼスチャーで示した車を、そのまま実体化したら……
(ん!?んん!?これってリムジンじゃ……!?)
(水沢の父親はリムジンを持っているのか……!?ぴっかぴかの黒塗りの!?)
(そして、それで出勤しているのか……?そのついでに娘を送っていくのか……!?何者!?社長!?)
水沢を見ると、何気なく持っているバッグはピカピカのブランド品だ。
(へー、へー……)
なんだか、急に、いろいろなことが空しくなってきた。
(私はしめっぽい満員電車で、ぎゅうづめになりながら来たのに……。期待していた出会いも何もないままに……)
(それなのに……、このちゃらんぽらんな後輩は、超がつくほど快適な車でドア・トゥ・ドアなのか……)
(がんばれ!がんばれ労働者階級!がんばれ社畜!)
(あぁ!どんどん落ちるわー……)
(じゃなくて!とにかく!今日の占いでナンバーワンのやぎ座よ!これからよ、まだまだ挽回の余地はあるわ!)
ただ、これではっきりした。
水沢が早く来たのは、彼女自身の判断ではない。ただ単にパパの車で送ってもらった結果、早く着いちゃっただけだということが。
(なのにあの言い方)
(そして、すっかり信じ込んでしまった自分。感動すら覚えたのに……!)
正直者の、そしてちょっと残念なヒガシ君……。そういう情報は、いらなかったなぁ……。
知らなきゃよかった~♪て思うことば~っかり~♪
三樹の心の中で歌が流れる。
そうだ、学生のときに付き合っていた男がミスチルのファンで、カラオケと言ったらミスチルばかり歌っていた。
(それで、心のままどっか行っちゃったな……)
いらないことを思い出させてくれてありがとう、ヒガシ君。ニシヘヒガシヘ、ヒガシ君。
ふと、窓の外を見る。雨は止まない。




