第二話 南方諸島領紛争
私の中隊長就任から3週間ほど過ぎたある日の事。
軍本部は魔法通信と報告書の嵐が巻き起こっていた・・・
その理由は5年前皇帝が征服した南方諸島領で・・・正確にはロンダルキァ諸島同盟国家で帝国に対する叛乱が起きたという知らせが首都に届いたからだった。
「君と君の中隊に現地に侵入して艦隊がとまれるように港を確保してもらいたい。」
新米もいる部隊には荷が重過ぎるがとりあえずこの将軍はまだ考えが柔軟なので聞いてみる。
「何処かの隊がアシストをしてくれますか?我々だけではどうにもなりません。敵の警戒網も結構厳しいもでして。」
「勿論だ。情報局特殊斥候隊第七課に援護に回らせる。」
「それなら全くとは行かないまでも問題はありません。その任務ありがたく拝領いたします。」
「うむ。国家の威信が掛かってる。頑張ってくれたまえ。」
「了解しました。」
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行きの船の中で・・・
「ええと・・・船酔いが4人ほど出てます隊長殿。」
「お前は大丈夫なのか?スノウ?」
「ええ。何度ものってますから。」
8人の内4人が戦線離脱をしているこの状況で敵の監視網に引っかかったら最悪だ。
そしてこういう時の私の予感は必ず当ってしまう。勘弁してくれ。
「そこの不審船に通告する。直ちに停船しろ!!停止せずに航行を続けるようならば砲撃する!!。」
ああ、神よ。私もここまでか。私は基本的に狙撃とナイフでの戦闘しか出来ない。癒者だしね。たとえ今この不安定な船上で撃っても恐らく確実に殺れるという保証はないだろう。
「スノウ。お前泳げるか?」
「はい。2、3人ならつれて泳げます。」
やはり彼女は才女だ。惚れるね。
「ではそこの船酔いしてる奴じゃない奴連れて飛び込め。」
「・・・じゃあ隊長殿は・・・ジョナサンはどうするの・・・?」
「情報の漏洩は私の責任だ。多分。だから残った奴等を守り敵と交渉する人間が必要だ。」
「分かりました。それでは貴方が無事で任務に戻れるように祈っています。」
「是非そうしてくれ。それから・・・もう行った方がいい。」
「はい。では。」
そう言うと彼女はトプンと水に飛び込み、隊の連中を3人つれてもぐっていった。
「しかしどうしたものか?困ったな・・・。」
「今すぐ船員を全員甲板に集めろ!!これより臨検を行う!!。」
随分と小物臭漂う男がそうのたまった。
「へい。わかりやした。」
この船は漁船に化けているのでそれっぽく言ったのだがすぐさまそれが無駄だったと悟る事になる。
「この僕を誰だと思っている!!平民如きと一緒にするなっ!!」
などと寝ぼけて敵に言った奴がいたのだ。
「貴様帝国のスパイだな。フフフ、今命乞いをするなら助けてやらんでもないぞ?」
ニヤニヤしながらそんなことを言う。間違いない。この男、か ま せ 犬 だ。
そうだ。こういうこと言う奴は大概後で死ぬ奴だ。
「誰がそんなこと!!「お願いします命だけは勘弁してください。」
「なっ!!」
坊ちゃんが驚いている。
「貴様は分かっているようだな。という事は平民出身の特殊部隊員ということか・・・あちらのリストにはそんなこと・・・」
どうやら此方にスパイがいたようだ。やれやれ。でも此処で終わってやるほど私は優しくないのだ。
「我、炎の魔神イフリートの契約者なり。契約に基づきその地獄の猛火を使役せん。出でよ炎の霧。」
短縮詠唱した炎の霧に契約の力をプラスしてみた。案の定敵の監視艇は轟沈。
「皆飛び込むんだ!!」
今ので少し落ち着いたのかは知らんが率先して飛び込み叫んだ男がいた。あいつ名前は確かキリル・グラードとかいったな。父親は国家安全保障局の局長で爵位は公爵らしい。
「おいグラード。お前を臨時の副隊長にする。ちょいと手伝え。」
すると案外あっさりと
「いいぜ。隊員の誘導は俺に任せてくれ。」
などといってくれた。意外と使える駒かもな・・・
そして再度炎の霧を使用する。
「ウボァー!!」
うちの船に乗り移っていた敵の監視員も全員焼き殺しておいた。
ほらね?小物臭がするって言ったろ?まあ私が殺ったんだが。
え?交渉?今のが私の交渉さ。本来の意味とは大分違うがね。
とりあえず港に着くことは出来そうな予感がした。