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第八話 今ここで死ぬか

 リリスは静かに空中に佇み、攻撃のための魔力を蓄えている。

 目を閉じているが隙が見えない。

 この状態の魔王を魔法で攻撃すると、全てエネルギーとして吸収された。


「《フレイム、燃えよ》」


 試しに火の玉をリリスに向かって撃つ。


 一直線にリリスに向かって飛んでいった火の玉は、リリスにぶつかる直前で動きを止め、ゆっくりと角に吸収されていった。

 それならばと飛び上がり杖で横殴りにする。

 勢いよく振った杖もリリスに当たる手前で止まり、逆方向に吹っ飛ばされた。


「おっと」


 取り落としそうになった杖を持ち直し、着地した。

 さっきまでの魔法のぶつかり合いで上がった気温が下がる。

 リリスの角がエネルギーを吸収しているらしい。


 相手の攻撃が吸収出来る魔法だ。

 感心する。


 シールドを念の為に100枚ほど張ってリリスの攻撃を受け止める準備をした。

 リリスがゆっくりと目を開いた。


「人間、生まれこのリリスの前に現れた事を、嘆くがいい」


 リリスはそう言い、角からレーザービームを放った。

 空気が焼かれる高い無機質なキーンという音がする。


 バチバチバチ!!


 レーザーを受け止めたシールドは音を立て、どんどんと剥がれていく。

 シールドが一枚剥がれる度に、レーザービームの勢いが削がれた。


「61、62、63、64、65、66…すげえな、一回の攻撃で66枚もシールドを消しやがった」


「まだじゃ、まだ…!」 


 リリスはそう言い、また角からレーザービームを放った。

 リリスの攻撃に合わせシールドを追加する。


 今回のレーザービームはさっきよりも勢いが弱い。

 溜めの時間が威力に影響するのか?


 これ以上は攻撃方法もなさそうだし、そろそろ終わりにするか。

 俺はリリスにかけていた魔力回復の魔法を解いた。


 シールドを重ねがけして攻撃を防ぎつつ、杖を魔法で覆い剣をつくる。


 レーザービームとシールドがぶつかるたびに閃光が走り、視界が悪くなる。


「はあ、はあ…やったか?」


 魔力が切れたのかリリスが攻撃を止めた。

 空中で息を切らしたリリスの後ろに瞬間移動して、剣を振り下ろす。


「キャアアアアアアア!」


 羽をもがれたリリスが叫び声を上げ地面に落ちた。

 ドスン、と音がし、汚れた床がリリスを受け止める。


 それを追いかけ、仰向けに倒れたリリスの胸を足で踏み、剣を突きつけた。


「う」


 動けないように足で体を押さえつけると、リリスはうめき声を上げた。


「今ここで死ぬか、俺の使い魔になるか、どっちか選べ」


 剣を突きつけたまま聞く。


「………。」


 リリスはなかなか答えない。

 痺れを切らした俺は剣でリリスの腕を切り落とした。


「う、痛い、痛いいいい」

 

 リリスが泣き始めた。

 いつの間にか巨大だった爪も牙も無くなっている。

  

「使い魔になれ、いいな?」


 俺は胸を踏む足に体重をかけながら言った。

 リリスが号泣したままコクコクとうなづいた。


 ◇


 切り落とした羽の根元と腕からは真っ黒な血が流れている。

 薄汚れていた床は、リリスから流れ出た血が広がり、黒い漆を塗ったようにツヤが出ている。


 人間なら間違いなく失血死する量だが、魔族はこれくらいでは死なないはずだ。

 俺は治療の魔法よりも使い魔にする契約の魔法を先にかけることにした。


「今から俺が言うことに全て〃はい〃で答えろ。」


 リリスが涙を流しながらうなづく。

 それを確認して契約の口上を開始した。


「《我はあなたの主となりて、あなたを導くものである》」


「ぐすっ。はぃ」


 リリスが痛みでえずきながら答える。

 汚れるから吐くなよ。


「《あなたは我の他に何者も主としてはならない》」


「がはっ、はい」


 リリスが血の塊を吐いた。

 足にしぶきがかかる。


 靴が汚されたことに苛立って、顔を蹴った。

 リリスの顔が横を向いたまま戻らなくなる。


 虚ろな目で横を向いたリリスは、びちゃびちゃと床に血を吐いた。


「《あなたは我に従わなくてはならない。背いてはいけない》」


「うえっ。はぃ」


 リリスの顔色が悪くなっていく。

 血を流しすぎたらしい。

 俺は早口で契約の口上を言い立てた。


「《あなたは何物よりも我の命を優先させなければならない》」


「…かはっ、はい」


 段々とリリスの声が小さくなっていく。

 はっきり言わないと契約がかわせないだろうが。


「《我の戒めを守るものに恵みは与えられる。我の戒めに背くものに報いは与えられる》」


「ぐす、はい」


 口上を全て言い終え、リリスが最後の質問に答えると、リリスが倒れてる場所に魔法陣が現れた。


 魔法陣は光って回転し、段々と小さくなってリリスの体に吸い込まれる。


 リリスのへその上に所有印が刻まれた。

 契約を解除しない限り、俺に逆らったら所有印が痛むはずだ。


 終わった。

 安堵しながら一息つく。


 使い魔の魔法は契約の口上を全て同意させなければいけないのが面倒だ。


 大抵一度ぼこぼこにしてからでないということを聞かない。

 殺したら使い魔にできないから加減が難しい。


 話すことができない魔物はハイなら右手を、イイエなら左手を上げさせる。


 つまり質問の度に右手を上げさせればいい。

 要は同意のポーズが得られれば契約はなされるのだ。

 

 リリスの体から足をどけ、剣を杖に戻す。

 腕と羽の治療をしてやるか。

 リリスは泣く気力もないのか静かになっていた。

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