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第六話 桃色の髪をした少女

 犬が跳躍を繰り返す毎に犬の体を作っていた金属が床に落ち、犬はどんどんとちいさくなっていった。


 右の前脚を切り落とした時、いきなりケルベロスの体が動かなくなった。

 ガクンと動きを停止した巨体が床に崩れ落ちた。

 関節をつないでいた金属片が飛び散り、部品ごとにバラバラになる。

 ケルベロスはただの金属の塊になった。


 前脚に術式が書いてあったらしい。

 前脚だけはまだ生き物のように脈打ち、動いている。

 止めを刺すために術式を真っ二つにするように脈打つ脚を切った。

 

 ケルベロスを始末した俺は、辺りを見渡した。

 敵が居なくなり余裕が出来た。

 読み通り、ここは宝物庫のようだ。

 魔王の財宝ならさぞ価値が有るものだろう。


「けんじゃさん…」


 アンジュの掠れた声がした。

 生きてたか。


「《ヒール、回復せよ》」


 床にうずくまったアンジュに近づき、回復魔法をかけた。

 ケルベロスの爪が刺さった背中から流れる血が止まる。

 青白いを通り越して土気色になっていた肌に血色が戻った。


「運がいいな」


 そう言いながらアンジュの背中に刺さった爪を抜く。

 痛みでうめき声を上げるアンジュを無視して回復魔法をかけた。

 

 土から腕を作り、アンジュにくっつける。

 アンジュは治療の間中、陸に釣り上げられた魚のようにビクビクと体をはねさせていた。


 数十分後、アンジュは完全に元の体を取り戻した。

 服は見る影もなくボロボロだが、それくらいは自分で直せるだろう。


「賢者さん、ありがとうございます」


「死ななくて良かったな」


 ◇


 俺達は敵がいなくなった宝物庫を悠々と漁った。

 金銀、宝石に装飾品、珍しい武器も見つけた。

 これでしばらく金には困らないだろう。

 50年の間に、財宝の類に価値がなくなってなければだが。


「賢者さん、これ、なんでしょうか?」


 アンジュが指差すその先には、全体が黒く、銀の装飾を施された柩があった。

 装飾は封印と魔力増強の魔法陣を書いたもののようだ。

 見るからに怪しい。

 トラップか?


「開けてもいいですか?」


 アンジュが新しいおもちゃを見つけた子供のように目を輝かせながら柩に手をかけた。


「さっき部屋にいきなり入って死にかけたばかりだろ。鶏でももう少し学習するぜ」


 うんざりしながらアンジュに忠告する。


「死にかけても賢者さんが治してくれるじゃないですか!」


 こいつ、俺の回復魔法を当てにしてやがる。

 完璧に戻さずに腕を変にくっつけてやればよかった。

 回復できても痛みはあると思うんだが、やっぱりクスリでもやってんのか。


「開けますね!」


 アンジュは俺の返答を待たずに柩の蓋を開いた。


 黙々と紫色の煙がのぼる。

 匂いからして毒だな。

 ほんのり甘く鼻に抜ける清涼感のある匂いがする。


 俺は状態異常無効化のバフがかかっているからダメージはないが、アンジュはやばいんじゃないか。

 そう思いながらアンジュの方を見ると、案の定顔を紫色に変えてへたりこんでいる。


 吐かれても困るし、治してやるか。

 解毒と浄化の魔法をかけて、毒の霧を無害化した。

 アンジュにも同じ魔法をかける。


「はりがとぃございましゅ~」

 

 アンジュはヘロヘロになりながらお礼を言った。

 ヨダレを垂らした見苦しい顔はエルフとは思えない。


 柩から立ち上る霧が晴れ、中身が見えるようになった。

 柩には、12、3歳位の見た目の少女が横たわっていた。


 桃色の髪をした少女は、微動だにしない。

 額縁に入った絵画のようだ。

 寝息も聞こえない。

 息をしていないようだ。

 封印されているらしい。

 

「あら、可愛らしい。おきてーおきてくださーい!」


 そう言ってアンジュはペチペチと眠る少女の頬を叩いた。

 おそらく俺もこうやって起こされたのだろう。

 エルフの声にはわずかだが治癒の効果があった。

 エルフが声をかけ続ければ封印も解けるだろう。


「う、うぅ…」


 少女はゆっくりと目を見開き、覗き込んでいるアンジュをみて叫び声を上げた。


「きゃー!」


「ぎゃー!」


 それを聞いたアンジュもびっくりして叫ぶ。

 二人の大声が地下室に響く。

 うるさい、耳が痛い。


「なん、なんじゃおぬし!なぜここに人間が!?」


 柩の中で上半身を起こし、動揺で身を震わせながら少女が言った。


「私は人間じゃないです。エルフです」


「そんなことは聞いておらぬのじゃ!だって、父上が上にいるはずじゃ」


「父上?上には賢者さん以外誰もいませんでしたよ」


 そう言ってアンジュが俺を指さした。

 人を指差すな。


「え?誰じゃお主。父上の部下か?」


 少女は柩の中から不思議そうに俺を見た。


「お前こそ誰だ。なぜ魔王城の地下に封印されてた」


「わらわはこの地上を蹂躙し、破壊し、支配下に置く魔王の娘、リリスじゃ」


 リリスと名乗った少女は胸をはり答えた。

 見ず知らずの、しかも敵対陣営である人間に自己紹介なんて、警戒心が薄すぎるな。

 俺はニッコリと笑った。

 杖をリリスに向ける。


「俺は魔王を倒し世界を救った勇者一行の一人、賢者のダエーワだ。これからよろしくな、魔王の娘、リリスとやら」


 リリスが答える前に、拘束の魔法をかけた。

 魔法をかけられたリリスは、腕と足を棒の様に伸ばした。

 腕は背中にくっつき、足はつま先まで真っ直ぐに伸びている。

 起きていられなくなったリリスは再び柩の中に倒れ込んだ。



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