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第五話 地獄の番犬


「《審理に問う。我、見えぬものを見ることを望む。この眼に映らぬうたかたを、見出すことを望む》」


 呪文を唱えると、頭の中に立体的な城の見取り図が浮かんできた。

 俺たちがいるのが玉座の間だ。

 誰がどこにいるかもわかるらしい。

 テラや使用人たちが一階で瓦礫を片付けているのがみえる。


「やっぱりな。地下に空間がある」


 予想が当たって気分が高揚する。


「さすが賢者さん!」


 地下への通路は、一階の浴場にある様だ。

 水を貯めれば地下の匂いもごまかせるからか?

 俺たちは早速浴場に向かい、地下に通じる扉を探した。


「あったあった!ありましたよ、賢者さん!」


 飛び跳ねるアンジュの方に向かうと、50年の歳月で完全に地面と一体となった扉があった。

 蝶番とレバーがなければ完全に床だ。

 杖を扉に向け、爆発の魔法で扉を壊す。

 扉は木っ端微塵に砕け散り、爆発の跡と地下に通じる空洞が残った。

 世界が善なる光に包まれるようになってから50年。

 魔王城すら隅々まで光に照らされているのに、この穴は禍々しい気で満ちているようだ。

 土の匂いと鉄の匂いがする。


「何かいますか?これ」


 アンジュも感じ取ったのかなんとも言えない微妙な顔をしている。

 怪しさしかしない穴に、高揚した気分が落ち込んだ。


「魔法で見たときは、何もいなかった。少なくとも生き物はな」


 暗い地下を照らせるように、光の球を出現させる。

 ふわふわと漂う光の球の後を追って、俺たちは空洞の中に入った。


 中は石を組んで作られていた。

 光の球をふやし、所々にある燭台に乗せていく。

 帰り道は明るく照らされることだろう。


 しばらく進むと、かんぬきがある扉に突き当たった。


「ここですね!宝物庫!」


「多分な」


 土埃をかぶったかんぬきを外す。

 木で出来たかんぬきは腐りかけ、カビが広がり緑色になっているが、意外にもすんなりとどかすことができた。


 ◇


「開けるぞ」


 鉄でできた重い扉を押すと、真っ暗な闇が広がっていた。

 用心深く中に光の球を送り込む。

 ひとつだけだと照らしきれない位広い場所のようだった。

 地上でした鉄の匂いはこの扉から漂っていたのだろうか。


「広いですね!これはもう抱えきれないくらいの財宝が眠ってるに違いありません!」


 アンジュがそう言い、中に入った。

 その瞬間、アンジュの左腕がどこかに消えた。


「ヒ、アアアアアアアアアアア!」


 アンジュが叫ぶ。


「何だ!?」


「腕、腕が…!」


 光の球を追加で10個ほど送り込む。

 ようやく全体が見えてきた。

 闇の中に、三つの首に分かれた巨大な犬がいた。


「魔物!?まだいたのか!?」


 アンジュに血止めの魔法をかける。

 後で腕を生やしてやろう。

 俺はなんて優しいんだ。


「けん、けんじゃさん…」


「うるせえ邪魔だ。役立たずは引っ込んでろ」


 息も絶え絶えなアンジュが床にうずくまっている。

 三つの頭のうち、真ん中の犬の口元が咀嚼するように動く。

 犬はアンジュの腕だったであろう骨と肉と血でできた赤黒い塊を床に吐き出した。


 大量の血液で元は白かったであろう床は赤茶けた色になっていた。

 これまでここにたどり着いたトレジャーハンターも同じようにやられたのかもしれない。

 大量の人骨が犬の下に積み重なっている。


「地獄の番犬、ケルベロスか」


 ケルベロスは六つの目で俺を捉えた。

 グルルルと音を出し威嚇している。

 威圧感に鳥肌が立った。


 前足でダンダンと床を踏み鳴らし、こちらに飛びかかってきた。

 

 俺は杖を魔法で巨大な剣に変え、ケルベロスの牙を受け止めた。

 そのまま剣を横に振り、ケルベロスを口元から裂く。

 

 ギャン、と鳴き声を上げたケルベロスは後ろに飛び退いた。

 真ん中の頭の口が、切り裂かれてパックリと割れているが、切り口から血は流れていない。

 切った感触も、肉を切った時とは違うもので、金属を切ったように硬かった。


「こいつ、絡繰り人形(マリオネット)か」


 絡繰り人形(マリオネット)は痛みを感じず、生存本能もない。

 込められた魔法がきれるまで術式の通りに動き続ける。

 術式を破壊すれば倒せるが、こう巨大だとどこにあるのかわからないな。


 剣を振り、ケルベロスの真ん中の頭を落とす。

 まだケルベロスは動く、術式はほかの場所のようだ。

 鉄と青銅で出来た巨体が、落ちた頭をものともせずに侵入者を排除しようと動く。

 

 ケルベロスが前足の爪を振りかぶってきた。

 それを受け止め、牙と同じように斬る。

 ケルベロスの鉄で出来た爪がそのままの形で宙を舞う。

 爪の一枚が床でうずくまっていたアンジュに刺さった。


「うっ」


 叫ぶ気力もないのか、短くうめき声を上げるがアンジュは微動だにしない。

 死んだかもしれないな。

 蘇生魔法は瀕死から健康状態にすることはできるが、死者を生き返らせることはできない。 


 魂のセーブをしておけば、セーブをした時点の体と魂を《審理の黙示録(アポカリプス・テセラ)》で甦らせることはできるが、アンジュのセーブはしていない。

 今死んだら、それまでだな。


 ケルベロスは攻撃の手を緩めない。

 攻撃を防ぎながら、剣でケルベロスを細切れにしていく。

 キンキンキン、と金属が触れ合い壊れる硬質な音が響く。


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