第二話 見殺しにしたクズ
魔王との激戦で勇者たち三人は消耗が激しい。
俺は《審理の黙示録》の効果で常に体力も魔力も回復し続け、オートでバフがかかる。
ぶっちゃけ魔王との戦いも一人のほうが早かった気がするが、勇者でないと魔王に止めがさせないのだからしょうがない。
だが今俺の敵になっている三人、こいつらには普通に攻撃が出来るし、殺せる。
「これからの世界にお前は不要だ。お前をここで殺さないければ新たな魔王が生まれる」
「そんなつもり無いんだが」
勇者たちはどうしても俺を殺すつもりらしい。
仕方ない。
やらなきゃやられるなら、やるまでだ。
手始めに戦士と魔法使いに魔法で火をつける。
「キイイイイイイイイイ!」
「ガアアアアアアアアア!」
鉄のスプーンをこすり合わせた様な不快な断末魔を上げて、二人が黒焦げになった。
人の形をした炭が崩れ落ち、焚き火の跡の様に黒く煤けた地面が残った。
脂肪を焼いた油っぽさが鼻につく。
嫌な匂いだ。
人間も燃えちまえば牛や豚と変わんねえな。
「なあ、勇者、本気で俺に勝てると思ってるのか?」
杖を勇者に向け、問う。
勇者の固有スキル《神の加護》は厄介だ。
1%でも勇者が勝つ可能性があるときに勇者が死にかけると、勇者は死なずにバフ付きで全回復する。
まあ、100%俺が勝つ状況になってから追い打ちをかければいいんだがな。
「勝てるかどうかじゃない、勝つんだ」
「さすが、勇者様は気高いね。力の差がある相手に立ち向かい、強きをくじき弱きを助く。妹を助けなかったのはあいつが強かったからかい?」
「二度と妹のことを口に出すな」
「うるせえな。見殺しにしたクズに妹呼ばわりされたくないだろうよ。俺の力を使って魔王を倒したんだ。お前も同罪だぜ。ガキ一人の命でチート級の力が手に入ったんだ!コスパ最強だと思わないか?」
「口に出すなって、言ってんだろ!!!」
勇者が斬りかかってくる。
魔法で弾き飛ばす。
こいつも飽きないな。
俺はいいことを思いついた。
「なあ勇者、《神の加護》って、死にかけたら発動するよな。なら、殺そうとせずに永遠に封印しちまえば起動しないんじゃねえか?」
そう言って勇者をこの魔王城の最深部に封じ込めるための魔法の術式を出現させる。
「永遠に眠れ、勇者」
封印魔法が勇者に向かって飛んでいく。
勇者は剣を構えているが、剣で魔法は防げないだろう。
王様には勇者は魔王との相討ちで死んだ、とでも言えばいい。
俺が勇者に選ばれてたら、こんな手間をかけずに済んだんだがな。
「眠るのはお前だ。賢者」
勇者はそう言い、俺の魔法を弾き返した。
魔法の粒が俺に襲いかかる。
弾こうとするが魔法が発動しない。
「は?カウンター!?」
「どんな魔法、攻撃でも一度だけ跳ね返せる。仲間にも話してなかった俺の固有スキル《神の祝福》だよ」
勇者が俺を睨みつけて言った。
「お前は本当にいい性格してるよな」
そう言って舌打ちをする。
これだから勇者は嫌いなんだ。
モブは黙って死んでろってかよ。
こうして俺は、魔王城の最深部に封印された。
──五十年後 魔王城・最深部──
「賢者さん、賢者さん、起きてくださいよ!」
「ここは…」
声が聞こえて目が覚めると、目の前に長い銀髪の巨乳美少女がいた。
「天使のお迎えか?」
「私がエルフだと一瞬で見破るとは!さすが賢者さんお目が高い!」
エルフの少女は楽しそうにくるくると回った。
「天国に来れるとは思ってなかったな」
「天国ですか?そうかもしれません!なんせ今のこの世界には高慢も貪欲も妬みも怒りも!肉欲も貪欲も怠惰も全て!およそ悪と呼ばれるものは存在してませんから!」
「悪が存在しない世界か」
『これで地上から悪は消え、善なる光りに包まれた新しい世界が始まる』
魔王を倒した後の勇者の言葉を思い出した。
魔王は悪の根源だ。
魔王を打倒したから悪は消えたのだろう。
勇者の目的は世界から悪、悲しみや苦痛の原因を取り除くことで、それは達成された。
「あーあ、ほんとつまんねえな。全ては神の御心ってか」
勇者の思い通りの世界。
民達が望んだ世界。
なんと都合のいい世界だ。
「つまんない??」
少女が回るのを止め、笑いながらこちらに近づいてくる。
「ああ、つまんないね」
最後の最後で魔王を倒した仲間を裏切ったあの勇者に反吐が出る。
封印の陣から抜け出して軽く肩を回し体が動くことを確認する。
どれだけ封印されていたかはわからないが、問題なく体は動くようだ。
「つまんないなら、私と一緒に世界を面白くしませんか?」
目を輝かせて少女はこちらに迫ってくる。
こいつ多分クスリでもキメてるな。
目の焦点が合ってねえぞ。
「どうやって?」
注意深く少女を視界に捉えながら聞く。
この少女は油断しているといきなり攻撃してきそうだ。
旅を経験した冒険者としての勘がそう言っている。
「あなたが魔王になるんです!」
「魔王ねえ」
魔王って人間でもなれるのか?
俺たちが倒した魔王は地獄から地上を侵略しに来たサタンだった。
数え切れないほどお前の血は何色だ等と言われてきたこの俺だが、普通に切れば赤い血が流れる地上の人間だ。
「悪いことなんて一つもない、正しくて美しくてマトモで皆が笑ってる世界。そんなの、つまんないじゃないですか」
少女はそう言い両手を高く上げた。
演説をしているつもりらしい。
「私と一緒に世界を悪で埋め尽くしましょう!」