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第一話 オニイサマには悪かったと思ってるよ

─魔王城・最深部─


「勇者よ、覚えておれ、儂を倒したところでまた次の魔王が出る。これで、終わったと思うなよ…!」


「あの世で、お前が苦しめ殺した人々に詫びろ」


 勇者の剣が魔王の心臓を貫いた。

 魔王は雄叫びを上げ真っ黒な血を流す。

 勇者は柄を握る両手に力を込め、魔王を内側から壊すために爆発の呪文を唱えた。

 ここは魔王城の最深部。

 俺たち勇者一行は長い旅の末、ついに魔王との戦いを迎えた。

 一昼夜続いた魔王との激戦が、今勇者の手によって終わろうとしている。


「これで、終わりだ」


 勇者がつぶやいた。

俺は賢者だ。

 勇者の言葉を合図に防御力と引換に攻撃力、魔法力をあげる呪文をかけた。


「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


 耳を覆いたくなる様な断末魔を上げ、魔王は消えた。

 俺たち勇者一行の勝利だ。


「終わった…」


「勝ったわ!光の勝利よ!」


 パーティの戦士と魔法使いが勝利を喜んでいる。

 俺は魔王が消えた場所に佇み、そのまま立ち尽くしている勇者に話しかけた。

 達成感でいっぱいだ。


「終ったな」


「ああ。これで地上から悪は消え、善なる光りに包まれた新しい世界が始まる」


「王都に戻ろう」


「それより前に、やることがある」


 勇者はそういい、いきなり俺に剣先を突きつけた。

 剣は魔王の黒い血で汚れ、禍々しい気を放ち、勇者の目には魔王を倒した時と同じ様に殺気がこもっている。

 俺は抵抗の意思がないことを示すため両腕を上げた。


「お前をここで、殺す」


「何を言ってるんだ?」


 俺と勇者のただならぬ雰囲気を感じ、戦士と魔法使いが武器を持ち直し戦闘態勢をとった。

 勇者が俺に剣を突きつけたまま話し始めた。


「トドロの街が魔王の軍勢に襲われた時、お前は逃げ道の橋を爆破して住民を皆殺しにした」


「あの数はあの頃の俺たちでは対処できなかった。逃げ道を残しておいたらそこから魔王軍に追われ、俺たちの身が危険に晒された」


 旅の最初の頃、滞在した街に魔王軍がいきなり攻めて来たのだ。

 その街は山と川に囲まれた場所で、魔王軍の侵略ルートと逆側に川があり、逃げるにはそこに架かった橋を通らなければならなかった。


 住民を避難させながら川を渡り、俺は勇者が川を渡ったのを確認した後橋を爆破した。

 その頃の俺たちは数万の魔王軍と対峙できるほどレベルが高くなかったし、そうしなければ魔王軍の追っ手にやられていただろう。


 巻き添えで仲間になったばかりだった遊び人は死んだが、しょうがない。


 勇者が一歩俺に近づいた。

 剣を怒りで震わせながら、勇者は言った。


「ナイトが囮になって魔王軍に捕らえられたとき、お前は躊躇いなくナイトごと魔王軍を倒した」


「囮になったってことはそうなる覚悟があったってことだ。人質から俺たちの弱点がバレたらまずいだろ」


 魔王軍の拠点に攻め入り劣勢となった時があった。

 ナイトが囮になり俺たちは逃げ体勢を整えた。

 魔王軍の幹部がナイトを人質にしながら追ってきたから殺した。

 

 また一歩あるき、勇者が俺との距離を縮めた。

 俺は縮まった距離の分後ずさりをした。


「魔王軍との二重スパイをやってた盗賊に、爆弾をつけて敵陣に向かわせ、自爆させた」


「どっちみち二重スパイがバレたらあいつに命はなかった。あいつのおかげで一つ拠点を落とせたんだ。感謝しようぜ」


 幼い頃に魔王軍に拾われ、魔物に育てられた盗賊は、勇者に助けられ仲間となった。

 魔王軍と勇者パーティの二重スパイをしていたが、盗聴器の存在がバレそうになったから自爆させた。

 拠点は盛大に燃え、一気に数百人の魔王軍を倒すことに成功した。

 魔王軍が一気に燃えたのは嬉しかったね。


 勇者がもう一歩近づいてきた。

 俺はまた後ずさりをして上げた手の中にある杖を握り直した。


「お前は自分の《審理の黙示録(アポカリプス・テセラ)》のために、ミアを犠牲にした」


「聖魔法の能力が高い処女、なんて限られてるだろ。あいつは自分で望んで生贄になったんだぜ」


 ミアは、魔王城にパーティが入るまで一緒に旅してきた仲間で、僧侶で、勇者の妹だった。


 旅の傍らずっと研究してきた俺は、聖魔法能力が高い処女の心臓を使えば、この世の理すら変えられる禁断の魔法、《審理の黙示録》が得られることを知った。

 ミアはそれで魔王を倒せるのなら、と儀式の生贄になった。


「お前さえいなければ…」


「なあ、俺が居なかったら魔王は倒せなかったろ?ミアのことは、オニイサマには悪かったと思ってるよ」


 ヤっとけば生贄にならずに済んだのにな。

 そう言うと勇者が雄叫びを上げて斬りかかってきた。


 ◆


 上げていた両腕で杖を構え、刃を受け止める。

 魔法を使い勇者を弾き飛ばした。


「魔王を倒した途端仲間は用済みなんて、お前の方がどうかしてる」


「うるさい!」


 弾き飛ばされた勇者は剣を持ち直し尚も向かってくる。

 戦士と魔法使いも勇者に加勢を始めた。


「俺を殺しても何も変わらないぜ、勇者様。あんたはこの世界の英雄だ。これから金も!名誉も!女も!好きなだけ手に入る。俺はおこぼれが貰えたら十分だ」


「この!鬼!悪魔!」


 魔法使いが勇者の援護をして魔法を撃ってくる。

 魔王との戦いで傷ついた腕から血を流している。


「毎回毎回盾にしやがって…!」


 戦士が斬りかかってきた。

 こいつは本当に使えない。

 動きが遅すぎて攻撃が当たらない。

 

「蘇生魔法で生き返らせてるんだから良いだろ?俺以外がどれだけ死んでも復活させてやった」


「瀕死になったら役立たずだのゴミだの言いやがって!」


 勇者が剣で突きの攻撃してきた。

 今のは危なかったかもな。


「役立たずに役立たずって言って何が悪いんだよ。能無しは肉壁になっとけよ!」


 さっきまで仲間だった三人が一斉に襲いかかってきた。

 仲間を殺すのは忍びないって一応思ってるんだがな。


「あーあ、お前らが束になったって俺に勝てるわけないだろ」



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