赤い風船と空飛ぶくじら
特に内容はないです。こんな世界あったらいいなって思って書きました。
水色の空に赤い風船がぷかぷか浮かぶ。そんなある晴れた昼下がりのことでした。春の陽気に誘われて、7歳になったマリーは眠い目をこすりながら空を仰ぎました。手には赤い風船。誕生日の贈り物でした。
なんて良いお天気なの。と、マリーは考えました。空が青いのは天気がいいからかしら。それともお天気だから空が青いのかしらん。とりとめもない独り言がついつい小さな口からこぼれます。
ふと遠い空の向こうに目をやると、大きな影が近づいてきていました。尾びれをゆったりと揺らめかせて近づいてくるあの影は、くじらです。空くじらが鱗雲が疎らにたなびく青い空をゆっくりと横切りながら近づいてきていたのです。
「まぁ!なんて大きなくじらさん!」マリーは大喜びで大きく手を振りました。
空くじらは元来、大らかで気の良いものですから、マリーに気づくや否や、「ぶぉぉぉぉお!!ぶぉぉぉお!!」と大声で合図すると、思いっきり潮を吹き出しました。ぱっと、青空に虹がかかります。マリーは思わず歓声をあげました。
「くじらさーん!私はここよ!」もっともっと、くじらに近づこうと、マリーは小さな体をぐぅんと背伸びして両手を思いっきり広げました。……あっ!
ぐぅんぐぅん……マリーの大事な大事な真っ赤な風船がお空へぐんぐんと飛んでいってしまいました。
それを見た気の良い空くじらは「おお、こりゃいかん!」と慌てて捕まえようとしました。ですが、誰でも知っている通り、くじらに手はありません。焦ったくじらは思わずごっくん!……うっかり飲み込んでしまいました。
あぁ、なんという事でしょう。マリーの大事な風船は今やくじらのお腹の中です。悲しくて、驚いて、マリーは思わず泣き出してしまいました。
「あぁ、こりゃ参ったな。」優しいくじらはすっかり困り果ててしまいました。
しくしくしくしく泣くマリーと困り果てた空くじら。そんな一人と一匹を見ているものがいました。それは鳥です。お節介な黄色い鳥がバサバサと忙しなく羽を動かし近づいてきました。
「おやおや、空くじらさんじゃありませんか。それに泣いてるお嬢さん。どうなすったというのでしょうか?」
「私の風船をくじらさんが食べちゃったのよ。大事な大事なお誕生日の贈り物だったのに」
「黄色い鳥さん、賢いお前さんなら私のお腹の風船を、ちょいと取り出せるんじゃないのかい?」
黄色い鳥はちょっとばかし申し訳なさそうに言いました。
「そいつは無理な相談ってやつですよ。あっしが空くじらさんに飲み込まれろって言うんですかい?」
さすがの黄色い鳥も飲み込まれるのはごめんでした。そりゃ誰だってそうでしょう。くじらに飲み込まれるなんてお断りです。
「じゃあ、どうやったらこの女の子に風船を返したらいいんだろうか……」
くじらも困ってしまいます。
一人と一匹と一羽は、ウンウンと考えました。それでも良い考えは浮かびません。
空くじらは思わず大きなため息を吐きました。
「ぐぉぉぉお」
潮が空高く吹き上がります。
おやおや?これは良いアイデアね!マリーは閃きました。
「ねぇ、くじらさん、あなたの大きな肺に思いっきり息を吸い込んで、思いっきり潮を吹き出してちょうだい。きっと私の風船も、潮にのって飛び出してくるわ!そうしたら親切な黄色い鳥さん、あなたが飛んでる風船を捕まえてちょうだいな」
あらあら、これは良いアイデア。一人と一匹と一羽はさっそく試してみることにしました。
空くじらは、全部の鱗雲を吸い込むくらい思いっきり息を吸います。すぅぅぅぅう!そして吐きます。
「ぶぉぉぉぉお!!!!!」
潮水が高く高く吹き上がります、ばっしゃぁぁん。 空にはきらきら七色の橋。そこへ、ふわりふわりと赤い風船が飛びでました。
「あらよっと」
待ち構えていた黄色い鳥はパクリと風船を掴むと、マリーの元へと飛んで戻りました。
「あぁよかった!私の風船!空くじらさん、黄色い鳥さん、どうもありがとう!」
マリーは大喜びです。一人と一匹と一羽は喜びでにっこりと微笑みました。
その後は、きらきら輝く虹の橋を眺めながら、一人と一匹と一羽は仲良くおしゃべりして過ごしましたとさ。
もちろんマリーは風船をしっかり握ってね。
マリーちゃんは幼女なので我儘なのは許して。