俺(のペット?)は片鱗を見せる
「英雄の息子ってことで、散々っぱら我慢していたみたいだがな支部長も」
支部長……。
不自然な頭上の神経質そうな人物である。
正直、胡散臭くて、よく支部長になれたなっていうようなやつだ。
俺が言えたことではないが。
「それによぉ」
コモンはさらに毒を吐いてくる。
「周りのやつらもだぜぇ?」
見てみろよ。
コモンに言われた俺は、辺りを見回す。
俺と目が合うと、気まずそうに目線を逸らすヤツ、嫌らしくにやけているヤツ、ただ傍観しているヤツ。
なるほど。
何と言うか、お達しがあったみたいだな。
皆、事情を知っていそうだ。
四面楚歌ってやつか。
これは予想以上に。
「……報酬は? 指名依頼なんて言うくらいだから報酬はあるんだよな?」
声を震えさせないようにするだけで精一杯、いや、それさえも出来ているか怪しい。
だが、こんな蓄えもない状況で、いきなり国外追放なんてことになったら、野垂れ死にだ。
そう思って、質問したのだが。
「はんっ。どうするんです? 支部長」
コモンに促され、黒幕とも言える者が受付の奥、事務所となっている部屋の方からやってきた。
こちらのやり取りを聞いていたのか、素早い応答だった。
今日の髪の毛も、相変わらず破天荒だ。
『……おぬし、のんきだの』
いや、そうは言うがなラビ。
このくらいのんきに現実逃避していないと、心が折れそうなんだよ。
諦めそうとも言う。
「報酬、ねぇ……まあ、彼ら三人と違って、今までロクにギルドに貢献してこなかった人間に対して渡すものなんて無いに等しいんですがねぇ」
三人という言葉に反応したコモン、ノーマ、マールは、どや顔をこちらに向けてくる。
ポックル草、十年間拾ってたんだ!
俺だって充分貢献してるだろうが!
とは言えない空気だった。
何と言うか、ギルド全体の雰囲気がもう。
顎に手をやっていた驚きヘアーの支部長は、一つ何かを思い付いたというように顔をにやけさせる。
「皆さんはどう思いますか?」
イカレヘアーの支部長は、両手を広げてギルド内にいた者たちに問い掛けた。
「はん、草拾いしか出来ねぇようなヤツに、報酬なんて渡す必要ねえだろ」
誰かが宣言した。
俺にとっては、あまり聞きたくないような内容を。
「ギルド員を追放しないだけ、よっぽどましよね」
その声は、昨日普通に挨拶を交わした女魔法使い。
「俺にまで、能無しが移っちまうぜ」
先週、共に依頼を受けた戦士。
「英雄の息子だからって、いつまでも甘くしてると思うなよ、この持たざる者が!」
前に一緒に、剣のトレーニングをした大男。
「出てけ」
「「出てけ!」」
「「「出てけ!!!」」」
やがて、鳴り止まないコール。
ああ、そうか。
本当の持たざる者の扱いなんて、こんなものなのか。
俺は英雄の息子だから、今まで何とかなってたってわけか。
「だ、そうですよ? 持たざる者くん?」
コールが鳴り止んだタイミングで、最後に告げてくる支部長。
「では、指名依頼頑張ってくださいねぇ? 期限はこれより一週間後。これを過ぎて達成していなかった場合は……」
さて、どうなりますかねぇ。
そして支部長は、奥へと下がっていった。
知らず、俺の掌は血でにじんでいる。
目から涙を流すのはカッコ悪い、という俺の思いを汲んで、代わりに泣いてくれているのだろうか。
『……ヘルト』
ラビが俺に声をかけてくる。
そこに、気遣いの色はない。
『言われっぱなしだぬ。いいのか?』
なぜかその声音は、まるで悪魔の囁きのように、俺へと迫ってくるように感じた。
いいも、悪いも、もうどうしようもないだろう。
『本当にそうだと思うか?』
……どういう意味だ?
『もしもヘルトが望むなら、その通りにしてやってもいい。まあ、それはこの場限りの八つ当たりにしかならないだろうがね』
何を言っている……?
『もしくは、あのハゲの言う通りに、国外へと出ていって、好き放題やるか。こいつらは、いつか気付くだろうよ。自分たちが逃した魚の、途方もない大きさに』
さて、どっちにする?
おすすめは後者だぬ。
ラビは俺に、まだ理解の出来ていない二択を迫ってきた。
さっきから、ラビは何を言っているんだ?
俺にそんな力は……。
『あるんだな、それが』
何言っているんだ?
俺は才能もない、スキルもない、あるのは莫大な魔力だけだ。
『その通り。魔力。しかも、私たちにとって、とびっきり大好物な味のね』
は?
あじ?
鯵?
『魚の方じゃない。味覚だ』
魔力だけ持ってたって、俺たち人間にとっては何の役にも立たないんだが。
『人間にとっては、だぬ。ヘルトの魔力のお陰で、私は力を取り戻した。いや、違うか……』
どういう意味だ?
「おい、ヘルトさんよぉ? 何、黙りこくってんだよ? 言われただろぉ、無能は出ていけってな」
俺とラビが無言のやり取りをしていると、コモンが告げてきた。
ヘヘっ、と小物っぽく笑いながらコモンが俺に近付いてくる。
『ちょうどいい。あのどうしようもないバカな人間に見せてやろう』
見せてやろうって、何を……っ?!
その瞬間、俺の身体からほんの少しだけ何かが抜けたような感覚。
異変はすぐに現れた。
目の前の男に。
「あん? おい、ヘルトさんよぉ? どこ行ったんだぁ?」
目の前にいる俺を、コモンは見失っていた。
コモンの言動を見ていたノーマとマールは、ヘヘっと冗談混じりの口調で、言葉を投げてくる。
「おいおい、コモンさん。無能のヘルトなら目の前にいるじゃないか」
「無能過ぎて、存在も感じられないっていうのは分かるけどよ? ま、その冗談はサイコーに面白い! さっすがコモンさん!」
「お、おう?」
コモンは戸惑っている。
その動作はまるで……。
取り返しのつかないような出来事が起こってしまっているようだ。
ラビ、か?
『そうだ』
何をした?
『目眩まし、だな。半永久的な』
……とりあえず、ギルドの外に行くぞ。
どっちにしろ、この国にはいられないんだ。
「何だぁ? おかしいぞ?」
「へへっ、コモンさん。もう冗談はいいですって。ほら、無能が逃げていきますよ!」
「せっかくの、めでたい門出だ! お見送りしてやろうぜ! なあ、みんな!」
「「「ハハハハハハハハハ」」」
俺は取り敢えず、ギルド内の視線や嘲笑の雰囲気から逃げるようにして、扉より街の人混みへと抜けていった。