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第9夜

「ね、ねえ、私変なこと言っちゃったかな?」

 アインは私の前をすたすたと歩き、振り返ろうともしない。私は半ば駆け足の早歩きでその背中を追いかけながら、地面を見つめる。

「知らね。言ったんじゃねーの?」

「ねー真面目に聞いてるんだよ…。ていうか、さっきお土産だけは貰って行くって言ってたけど、お土産ってなんなの?」

「これ」

 ピラリと一枚の紙を取り出す。丈夫そうな布製の紙にはなにやら文字と数字が並んでいる。

「これって?」

「依頼書だよ。教会の棚の上に何枚も乱雑に置かれてたから、一枚だけ貰ってきた」

「いいのぉ?それ………」

 学校は行っていないが、孤児院でシスターが教えてくれていたこともあり、簡単な単語や数字くらいは読むことが出来る。その『依頼書』とやらには、こう書かれていた。

「『黒』、『十人』、『討伐』、『300,000コイン』……………三十万!?」

「ギルドに所属している奴は国からこういった依頼を受け、パーティーを編成して討伐に向かうんだ。なのにアイツ…随分と依頼書を溜め込んでたみたいだからな」

「三十万………」

「まあ討伐については拒否権もあるから行かないのも大した問題ではないんだけど……あれだけ溜め込んでるのはさすがに会議もの…………聞いてんのか?」

 ゼロが五つ並ぶ金額を今まで目にしたことがなかったため、自分の口から出た数字の大きさに自分で驚いていた。アインの話がまったく頭に入らない。というかアインは驚かないのか?子供の頃からずっと森に引き篭もってたって言っていたのに、この村にも驚く様子がなかった。

「アインって………神経どこか切れてるの?」

「いきなり罵倒か。歯ぁ食いしばれ」

 アインと私が取っ組み合いになっていると、次第に辺りが生臭くなってくる。

 私たちがいる場所は村から少し離れた公園。その脇には黒い森が広がっている。千年樹の森とは違い、嫌な空気が立ち込めている。

 匂いのする方向を見ていると、木々の隙間から不吉な赤いいくつもの目が、私たちを捉えていた。

「ねえ、もしかして、今から?」

「本当はギルドに出動申請を通してからなんだけどな……仕方ない、ここでやるぞ」

「ええ!?私まだ心の準備が………!」

「オレだって心もとない!オレとあんたの職業ジョブはそもそも後方支援専門だし……あんたの矢は本数が少ないから無闇に放つな。ある程度倒したらこの場から離脱するぞ」

「逃げるってことね!おっけーー!」

 半分以上ヤケクソだ。先ほどアインと戦った時とは全然違う。相手は何をしてくるかわからない魔物だ。理性のあるアインとの対戦とは、比べ物にならない殺気………!

 ヒタヒタと近づいてくる黒の魔物達。その姿を見れば見るほど、吐き気が込み上げてくる。

 震える手で弓を構える。ベルトから矢を抜くが、上手く固定されない。思わず後ずさってしまうほど、魔物達の殺気が酷い。

「────来るぞ!」

 アインの合図とともに魔物達が襲いかかってきた。


 戦闘が始まってからおよそ三十分。見るからにアインは消耗していた。それもそうだろう。敵を攻撃することに加え、戦いに慣れていない私の援護もしているのだ。そして何より、魔物に与えた攻撃に対するダメージが少なすぎる。

「……なるほど、火の属性ねぇ……」

「アイン……っ、早く逃げよう!」

「バカかよ、この状況で二人同時に逃げられるわけねぇだろ」

 魔物達は完全に私たちを包囲している。何人かは村の方に降りていったので、村も襲われているかもしれない。

 満身創痍のアインは舌打ちをし、しょうがねえと呟いた。

「一瞬だけ道開けるから、あんた走ってギルドまで行ってこい。それで応援要請をしてくるんだ」

「で、でも」

「大丈夫だ、千年樹が近いから魔力が切れることはない。…あんたの足なら突破できんだろ。ギルドはこの道真っ直ぐだ。いいな」

「う……………」

「いくぞ………」

 真っ直ぐに前を見つめるアイン。私は怖くて、足が震えて…でもそのアインの目を見ると、できないなんて言えなかった。

 私はただ走ればいい。走って、応援を呼ぶんだ。それしかできない………!

「行け!!」

 一点突破。アインの杖から発せられた風は、細く強く道を示した。魔物達に隙間が開き、私はそこを狙って一目散に走る。左右から伸ばされる手を振り払い、真っ直ぐにギルドへと向かう。

 いけた、できた、包囲から脱出できた!あとはこのまま走って、応援を頼むだけ…………


 そう思っていた矢先、遠くから悲鳴が聞こえた。公園のすぐ側、道から外れたところに人がいた。子供だ。何故ここに、と考えることもできないまま、状況が頭に入ってくる。

 子供のそばに一人、黒いモヤのような人物が。魔物がまさに今、手に持った斧を振りかざそうとしていた。

「やめて!!」

 頭が真っ白になり、軌道を変えて子供の元に駆け寄る。魔物に体当たりをかまし、よろけた隙に子供を抱きかかえて再び走り出す。子供は私の腕の中で顔を埋めて泣いていたが、顔を上げるとまた悲鳴をあげた。


「おねえちゃん!後ろ……!」

「…………!」


 背後には、斧を振り上げた魔物が立ちふさがっていた。私の目は斧に釘付けになる。悪夢のような黒い斧。それは風を切る音とともに、私の頭へと向かって振り下ろされた。

職業ジョブ


 様々な職業がある。戦闘系、支援系に分けられ、その中でも武器系、魔法系、召喚系などと分けられる。

 魔法使いやアーチャーなどの飛び道具や広範囲による攻撃が可能なジョブは、後方支援が主になる。

 回復系のジョブは少なく、各ギルドに五人いるかいないかである。稀少であるため、そのジョブに転職するには、難しい試験が積み重なる。だが他のジョブが簡単かと言えばそうではなく、魔法系や召喚系は天性の才能がなくてはなれないとも言われている。というのも、魔法や召喚は体内に保持された魔力を使うため、魔力が少ない人には成り立たないジョブだからだ。

 転職するには、ギルドで転職申請を出し、国が与える試験を乗り越えなくてはならない。

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