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第8夜

 扉を刃物で壊そうとする音。教会が小刻みに揺れるほどの衝撃だ。少しするとその音は止み、静寂が訪れる。

「…ここら辺の住宅の扉はほとんどが石造りです。そう簡単には壊れたりしないでしょう」

 そう言ってジルベールは奥へと入っていき、すぐにまた戻ってきた。その手には何やら不思議な形の杖を持っている。

 そしてベンチに座っている私の右側にしゃがむと、右腕に手をかざした。

「ひどい傷だ…魔物にやられたのですか?」

「え?」

 痛みも引きすっかり忘れていたが、右手にはいまだはっきりとアインにやられた棘の傷が残っていた。戦闘後、アインに止血効能のある植物を出してもらったため、もう血は出ていないが。

「あーこれはあそこの人に」

「村の中には木の家もあったよ。あそこの家の人は危ないんじゃないの?」

 チクろうとした瞬間、アインに頭を肘で押される。睨みつけるが、アインは知らんぷりで話している。

「確かにそうかも知れませんが…私たちにはどうする事もできません」

「それはどういう意味?」

「………六年前、突然現れた黒の魔物達がこの村を襲い始めました。初めは風ギルド総出で対応していましたが、やがて皆、戦意喪失してしまったのです。……どうです、痛くないですか?」

 右腕を見ると、傷はすっかり消えていた。跡すらも残っていない。一体どうやって…?アインは私の腕を見ると、小さく呟いた。

「ビジョップか……。話の続きだけど、戦意喪失した理由は?」

 アインの口調は早口だ。何やら急いで話を聞き出そうとしているように見えた。それよりも、今ビジョップって言った?という事は、ジルベールは回復系の魔法を使えるということか。

「……属性です」

「え?」

「属性の問題が出てきたのです。我々風属性は、水属性に強く火属性に弱いと教えられています。それは今までの戦場でも証明されてきました。

 ……ここ風の村は、魔力の比較的少ない水属性の魔物が現れることが多いのです。ほかの村も現れる魔物の属性に合わせて配置されています。それが……数年前から、村を襲う魔物達は水属性でないことが判明したのです。………彼らは、火属性でした」

 『属性』という言葉がたくさん出てきてこんがらがりそうだ。これがさっきアインがいっていた六代精霊とやらに関係があるのだろうか。二人とも完全に分かっている体で話しているので、何度も置いてけぼりにされそうになる。

「どこかで異変が起き始めたのです。六年前まではこんなことは無かった…!ギルドの者は魔物達に大勢倒され、今は弱い者や子供や老人しかいない。戦う術が、もはや無いのです………」

「じゃあ、ジルベールさんが戦えばいいんじゃない?」

 驚いた顔で私を見上げるジルベール。その下がった眉は、ぴくぴくと小刻みに痙攣した。ジルベールの持っている杖をぱっと奪うと、先端の先をビッと突き出して見せた。

「この杖、なんだかランサーの槍に似てない?この槍なら丈夫そうだし、太いし、殺傷力高そう」

「な、ん………」

「戦う人がいないなら、戦えるようになればいいんだよ!それしか無くない?」

 ジルベールは俯く。サラリと白い前髪が顔を覆い、表情が分からなくなる。しかし私はその様子に気づかず、自慢げに話していた。

「今からランサーに転職しちゃえば?その方がビジョップよりも強いじゃん!ジルベールさんはランサーの方が似合うと思うよ!」

「…………………なよ………」

 消え入りそうな声でジルベールが何かを呟く。意気揚々と話していた私は、その言葉を聞き逃してしまった。もう一度聞こうと耳を近づけたその瞬間、ジルベールは今日一番大きな声で叫び出した。


「勝手なことを言うなよ!!どいつもこいつも……!俺がどういう気持ちで戦ってきたのか知らないくせに!どうして俺が、ランサーからビジョップになったのかも知らないくせに…………!!」

「え…ランサーからビジョップに?」

「近づくな!!だから女は嫌いだ……!知りもしない人の事情にずけずけと入り込んできやがって!………知ったふうな口をきくなよ…………!!」

 床にうずくまり、肩を抱いて震え出すジルベール。その声は途切れ途切れに喉につまり、たまに過呼吸のような音を響かせた。

 アインはその様子を見て、少し眉を困らせると小さなため息をつく。

 私は慌てて、やり場のない手を握りながら声をかける。

「…ご、ごめんなさ…………」

「………いや、俺が悪いんです…。すみませんが、今日は別の宿で泊まっていただいてもいいですか……?紹介しますので」

「その必要はないよ」

 アインは黒いローブを翻して颯爽と石の扉の前に立つ。そして僅かな隙間に手をかざした。

「もう行くよ。この村にはオレもあんまり長居したくなかったし。まあお土産だけは貰って行くけど。」

「……?そういえば、あなた達は一体なんの旅を………」

「戦わない奴には関係ないだろ?」

 ぐ、とジルベールは口をつぐむ。アインはその様子を尻目で見ると、ふっと口元だけ笑った。

「別に皮肉で言ったわけじゃないから安心してよ。オレらがどんな旅をしていようがあんたには知ったことじゃないだろ?そういうこと」

 重たい石の扉を両手で押し開き、明るい光の指す外へと足を運ぶ。ジルベールは黙り込んだまま、ずっと下を向いている。私は何か言うべきか、目線をアインとジルベールの間をおろおろと動かすが、何も言葉が出てこなかった。奪い取った槍のような赤い杖をそっとジルベールの傍に立て掛け、アインのあとを追った。

【風ギルド】


 この国には五つのギルドがある。住む場所の環境によって、人は五つの属性に分けられる。

 風ギルドは六代精霊の一人、シルフィードの加護を受けている。千年樹の森に一番近いところに位置していることもあり、保持する魔力量が他の四つのギルドよりも多いことが特徴。魔法使い系が多い。

 水属性に強く、火属性に弱い。保持魔力の少ない水属性の魔物が、強い魔力に引かれて風の村に来るため、千年樹の森のすぐ近くに風ギルドが位置している。

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