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第5夜

 放たれた矢は、アインの背後にある大樹の幹に突き刺さる。私は迷うことなく、大樹へと駆けていく。だが………

「ぎゃッ!?」

 突然何かが足元に絡みつき、いきなり顔から転倒する。スピードが出ていたこともあり、鼻と額を勢いよくこすった。

 見てみると、ツタのようなものが突如地面から生えており、足首に絡みついていた。ほどこうともがくが、隙間なく絡んでおり、指を通すこともできない。もたもたしている間にも、アインは攻撃を仕掛けてくる。

「いーち」

「い"ッ!」

 右腕に何かがかすったような痛みが走る。ビリビリと指先まで痛みが貫通する。

「にーい」

「!」

 再び来る攻撃に、右手で構える。今度は手のひらに痛みが走る。

「う"ッ」

「さーん」

「うあっ!」

 痺れるような痛みをこらえ、右手で攻撃を全て受けることに成功する。だが、右手は少しずつ力が入らなくなっていった。

 ベルトから矢を抜き、アインへと放つ。少し軌道がぶれながらも飛んでいくその矢は、目標へとたどり着く前に見えない壁によって跳ね返された。

(くそッ)

 ほどくのが無理だと気づくと素早く立ち上がり、力任せにツルを引きちぎった。

「うぅぉぉおおおおお!!」

「ゴリラかよ……」

 強く絡まっていたそれは根元から抜け、ようやく身動きが取れるようになる。アインと距離を取り、右腕や手のひらに刺さった小さな棘を引き抜く。赤く細長い棘は、不吉な花を連想させた。

 周りを見ると、戦う前と同じ景色。また最初からやり直しだ。

「ふんっ上等!」

 右手は少しずつ痺れていく。再び大樹へと駆けていく。アインが杖に手を添える……前に矢をアインに向けて放つ。アインが防御に気を引かれているうちに樹へと入り込めば、一気に登ることが出来る算段だ。

 矢が突き刺さるその瞬間、アインは手を杖に添えると、沿ってした。


「!?」

 何が起こったのか、一瞬理解ができなかった。まるで竜巻のような風が襲い、私は背後へと吹き飛ばされる。

(植物だけだと思ってたのに、まさか風まで…!?)

「ううぁぁあ!!」

 高く飛ばされた衝撃で、地面に強く叩きつけられる。全身を鞭で打たれたような鈍い痛みが走る。くらり、一瞬空が一回転したような目眩に襲われた。

 圧倒的力の差。右手の指先に、もうほとんど力が入らない。弓が使えないとなると、どうやって勝てるのだろうか。きっと今までこの力で森に入ってきた者達を排除してきたのだろう。私みたいなど素人がかなう見込みなんて、ほとんどゼロなのだろう。だけど…

「女の子をボコる趣味はなかったんだけど、あんたは女の子っていうよりゴリラみたいだね」

 アインがすぐ横にしゃがみこみ、私の顔をのぞき込む。逆光で表情はよくわからない。チャリ、と胸元からネックレスにされたガラスのフォークが滑り落ちる。柔らかな自然の光に溶け込むのは、彼自身がそうなりたいと願っているからなのか。

「もういいだろ。今ならまだ見逃してやる。最終譲歩だ。お前ならわかるだろ。……オレにだって、ここを離れたくない理由があるんだ」

 静かに語りかけるような声は、そよ風に消えていく。私は目を閉じた。

「魔法使いならオレじゃなくなっていいだろ?さあ、帰るんだ」

「…………うーん」

「聞いてんのか?」

 深く息を吸うと、さっきまでは気が付かなった空気のおいしさが胸を満たす。体はあちこち痛い。右手は動かない。だけど、なぜだかすごく穏やかだった。

「……私、戦うのって初めて。こんなに痛いものなんだね」

「………そうだな」

「やっぱり、無理かぁ」

 吐き出すようにそうつぶやくと、アインは、やっとか、といった風にため息をついた。

「だから言ったろ?わかったならさっさと…」

「やっぱり、諦めて帰るなんて、絶対無理」


「は?」

 体をひねり、脚でアインの首をがっしりとホールドする。

「えっ?」

「痛いけど!まだ私の正義が諦めるべきじゃないと言ってるから!」

 残った左手に体重をかけ、勢いよく前方へと体をひねり上げる。そして、アインを背中から叩きつけた。

「がッ……!」


「君じゃなきゃ嫌だ!だって、君と仲良くなりたいと思ったんだもん!」


 アインがひるんだ隙に一目散に大樹へ走り抜ける。痺れは少しずつ右脇へと侵食していたが、まだ誤差の範囲だ。

 この時アインが杖に手を伸ばしていたが、途中で動きを止めたことに私は気づかなかった。

 大樹に刺した矢は足場のため。私が持っている矢は本数は少ないが、どれも普通の矢よりも太くて硬い木で作られた頑丈なものだ。

 いける。地面を強く蹴り、矢の突き刺さった根元を足にかける。そして、再び高く飛び上がった。

 あともう少し………。しかしまだ手は届かない。

(なら!)

 今度は樹の側面を蹴り飛ばす。斜め上へと体は傾き、樹の幹から離れていく。しかし、この左手は確かに一つめの枝を掴んでいた。

 体に勢いをつけ、そしてついに、私は大樹のてっぺんへと登りきった。


「やった〜〜〜〜!!」

「まさか本当に登りきる奴が現れるとはな……」

「え?何か言ったー?遠くて聞こえない!」

「うっせーゴリラ」

「んだとゴラァ!!」

「聞こえてんじゃん…」

 アインは地面に大の字で倒れたまま、私を見上げている。そして遠くてよく見えなかったが、多分、わずかに口元に笑みを浮かべたのだ。

【人物紹介】

アイン


 ソーサラーの青年。二十一歳。

 ガラスの色は水色で、その色のガラス細工のフォークを身につけている。

 色素が薄く、常に冷静な青年。

 特別な修行を積み、術師としての資格はないものの、独学でソーサラーとしての力を身につけた。

 植物に関する知識が豊富で、風や植物を発生させる魔法をつかさどる。

 信仰に関してはあまり関心がなく、教会に足を運ぶことは少ない。

 人となれ合うことを良しとしていないが、いざとなると協力を惜しまない。

 後方支援が主。

 思ったことをオブラートに包まず言ってしまうタイプで、喧嘩になることがしばしば。

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