表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/65

第4夜

 風が出てきた。ザワザワと葉が不穏な空気を演出する。青年が羽織っている黒いローブを風がたなびくと、首元から下げた水色のガラス細工のフォークが日光を反射してキラリと光った。

「……いきなり?」

「怖いなら帰るか?」

 意地悪にニヤニヤと笑う青年。余裕の表情だ。重い空気に思わず呼吸が浅くなるが、悟られないようにこちらも余裕の表情で返した。

「───連れていきなよ、そこに」


 移動中、青年のうしろについて歩く。木々はだんだんと少なくなり、地面を照らす光が強くなる。

「ところでさ、名前なんていうの?」

 沈黙に耐えられない性格なため、今から戦うのだというのに緊張感のない質問をしてしまった。青年は背中越しに答える。

「………アインだ」

「へー!何でここにいるの?」

「答える義理はない」

「じゃあさじゃあさ、どうしてマジシャンになったの?マジシャンって天性の才能がなくちゃなれないんでしょ?」

「………めっちゃぐいぐい来るな………」

 アインは一つため息をついてから私を一瞥すると、仕方ないといったふうに語りだした。

「だいたい俺はマジシャンじゃない。ソーサラーだ。独学で魔法の知識を身につけた。

 そしてここは千年樹の森だ。あんたがさっき落ちそうになった池から生えてた樹、あれが千年樹だ。あそこには多くの精霊が棲みついている。いわゆる六代精霊もここを住処すみかにしている。だからあんたがあそこに落ちそうになった時止めたんだ。別にあんたを助けたわけじゃない」

「ろくだいせいれい?って?」

「そんな事も知らないで魔王倒すなんて言ってんのか!?バカも休み休み言えよ」

「むっ!」

「六代精霊ってのは属性で別れた精霊の王だ。この国には五つのギルドがあるだろ。

 火ギルドにはサラマンダー、水ギルドにはウンディーネ、風ギルドにはシルフィード、光ギルドにはウィル・オ・ウィスプ、闇ギルドにはシェード。各ギルドは各精霊の加護を受けるんだ」

 ふうん、と気の抜けた返事をしながらアインに遅れないようについて行く。アインは随分と足が速い。……足の長さのせいもあるかもしれない。

「じゃあ、もう一人の精霊は?」

「そこまでは知らない。六人目の精霊が観測されたことは無いに等しいからな」

「へえ〜…ギルドって何が違うの?」

 アインは眉をひそめ、鼻で深く息を吸った。

「…さーね。説明するのが面倒くせぇ。だけど一つだけ教えてやるよ。風ギルドはこの森を出たすぐの所にある。だから、風ギルドの人間は他のギルドよりも精霊の加護を強く受けている。そして俺は風ギルド所属だ。この意味が分かるか?」

 アインは立ち止まり、くるりと振り返る。いつの間にかそこは広い草原で、高い木々に囲まれていた。風が葉を揺らす音、それがとても遠く感じる。

「オレは他の奴らよりも精霊の加護を受けている。────つまり、魔力が並よりもはるかに多いってことだ」

 …………簡単に言えば、結構やっかいだってことね。

 辺りを見渡すと、なるほど、一本だけやけに目立つ樹がある。ただでさえでかい樹がさらに背伸びをした感じだ。見たところ樹皮はすべすべしている。登りやすいか登りにくいかと聞かれたら、かなり登りにくそうだ。それを登れたら仲間に入るだなんて、最初は楽ちんだと思っていたが、かなりの無理難題な気がする。

(こいつ若干エスっ気あるな……)

 太い枝が地面から約三メートル離れた場所に、かろうじて一本だけ生えているという感じか。しかしその枝さえ掴んでしまえば、あとは登ることに苦労はなさそうだ。

「んじゃ、改めてルール説明だ。あんたが勝ったら、オレはあんたのパーティーに加わってやる。んでオレが勝ったら、あんたは今すぐここから立ち去ること。あとそうだな、その弓を寄越せ」

「はあっ!?そんな条件なかったじゃん!?」

「だってアンフェアだろ。お前が勝てば、オレはあんたと一緒にずっと戦うハメになるんだ。」

「……っ、しょうがないなぁ!」

 わざと大きい声で喋る。空気がピリピリしてきた。きっとアインに魔力が集まってきているのだ。ここが千年樹の森だからだろうか、魔法使いでない私でも魔力の流動を感じる。攻撃をまともに受ければ一発でやられるかもしれない。

 だが負けるわけにはいかない。この弓はシスターの形見だ。大切な形見をそう簡単に渡せるわけがない。

 アインはすっと人差し指をいちばん高い樹へ向ける。

「あのザフラの樹のてっぺんに登りきれたらあんたの勝ち。オレを倒してもあんたの勝ち。オレに行動不能にされたら、オレの勝ち。いいな?」

「うん」

「じゃ、お好きなタイミングでどうぞ」

 アインは距離をとる。私も後ずさりで離れる。こういった実戦は初めてだから、正直言って怖い。アインがどのくらい本気でやるのかわからないし、私もどれだけ出来るのかわからない。

「…ありがとう。それじゃあ………」

 背中の弓を左手に構え、靴のベルトに刺した矢を取り出す。木で作られた、素朴な弓矢。一筋の汗が頬を伝った。


「……お先にっ!!」


 キイン、空を裂く音を鳴らし、高く弧を描き飛んでいく矢。アインが杖に手を添えると同時に、私は一直線に走り出した。

【人物紹介】

ナターシャ


 アーチャーの少女。十六歳。

 ガラスの破片はアイボリーホワイトで、その色のガラス細工のリングを身につけている。

 おてんば娘で、思い立ったが吉日、すぐに行動に移す。

 生まれてから自我が芽生える前に、両親はいなくなっていた。

 その後孤児院で育ち、そこでの育ての親であるシスターの死をきっかけに、旅に出る。

 黒の魔王討伐に対する情熱は、正義感の他に何か理由があるようだ。

 田舎村で育ったため、運動神経は優れている。

 足が速い。

 アーチャーになろうとしたきっかけは、孤児院の棚に飾ってある写真に、シスターが若い頃のアーチャーとしての姿が写っていたから。

『私の五つの素敵な部分』が宝物。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ