表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/65

第3夜

 細い脇道を一列になりながら歩いていると、広い場所に繋がっていた。相変わらず枯れ木ばかりだが、廃れている、という風ではない。この枯れ木ばかりの風景も、見ようによっては味なもの……かもしれない。

 ロザリーが先導し、声のする方へ歩いていく。ふわふわと揺れる金髪の先をいじりながらついて行くと、急に止まったロザリーの背中に思いっきり鼻をぶつける。

「いててて……」

 鼻をさすりながらロザリーの視線の先を見てみると、そこには見たことのない建物が建っていた。

 材料はすべて石、だろうか。柱がいくつも建ち並び、円形の建物を造り出しているようだ。近づいてみると、思っていたよりも巨大で、細かい装飾もされている。建物の周りにはいくつもの石像があり、屈強な体つきをした男性が剣を掲げ、今にも振りかぶってきそうだ。

 声はこの円形の建物の中から聞こえてくる。近づけば近づくほど声は大きくなり、やがて歓声だと気づいた。

 建物の見事な造りとその巨大さに圧倒され、私たちは声を失う。ポカンと見上げていると、建物の中から人が出てきて、声をかけられた。

「なんだアンタ達?この谷の人間じゃないな。もしかして…観光か!?」

 出てきた男性は顔をぱあっと輝かせ、足早に私たちに近づく。何かを期待するかのような瞳だ。

「まあ……でも私たち、今ははぐれた仲間を探していて……」

「そーかそーか人探しか!じゃあ観ていくがいいよ、人が多いから見つかるかもしれないし!」

「え、ええ〜でも……」

「いやぁ観光客なんか久しぶりだなあ。特別に入場料はタダでいいぞ!火の谷は活気の良いところだって他の街のヤツらにも伝えてくれ!」

 男性は私たちを押し、満面の笑みで円形の建物の中に押し込もうとする。そんな余裕はないと言っても、男性はまあまあと言って軽く流してしまう。

 仕方がない、ほんの少し見て出ましょうとモドが耳打ちした。アインが嫌そうに身をよじりながら、男性に尋ねる。

「ところで、さっきから観てけ観てけと言っているが、ここは一体何なんだ?」

 男性はびっくりしたように目を見開く。

「アンタ達、知らないのか?結構有名なんだけどな。」

「悪いな。オレは引きこもりなもんで。」

 口角を少し歪めながらアインが答えると、男性はがっはっはと豪快に笑った。

「どうりでどうりで!男のくせに細すぎると思ったぜ。アンタそんなんじゃいつかポッキリ折れちまうぜ?」

「……余計なお世話だ。」

「がっはっはっは!いや、悪い悪い。ここは火の谷の唯一の観光名所、闘技場コロシアムだ!」

 闘技場…………。あまり聞きなれない言葉だ。そういえば昔、シスターから聞いたことがあったような気がする。

「まあ深く考えずに!楽しんでってくれよ。な?」

 男性はそう言い、皮の硬い手で私たちを建物の中に押し込んだ。

 転びそうになりながら中に入ると、そこはものすごい数の人でいっぱいだった。目下には建物と同じく円形の砂場。それをぐるっと取り囲むような客席は前方から後方にかけて上りの斜面になっている。今にも落っこちてしまわないかと思うほど身を乗り出している人。ぎゅうぎゅう詰めになりながらも歓声を上げる人々。その熱気に気圧されてしまう。

「闘技場って……何するの?」

「まあ名前の通り、闘技を行う場です。剣闘士グラディエーター傭兵マーセナリーが主にその技をぶつけ合います。魔法使いは出場禁止のガチンコ勝負をするんですよ。物理系であれば剣闘士や傭兵でなくても出場できるらしいですが……僕も知識で知っているだけなので、なんとも………。」

 私とモドとアインが何となく立ち尽くしている中、ロザリーは一人ワクワクした様子で客席に走っていく。

「何してイル?一番前!行こウよ!」

 ロザリーに手を引かれ、人をかき分けながらやっとの事で一番前の席についた。そこから見える景色は圧巻だ。みっしりと詰まった観客。砂の闘技場には低い風が吹き、砂を巻き上げていた。

 と、突然ガアンガアンというけたたましい音が響いた。少し高いバルコニーのような形をした場所から、誰かが鉄板を叩いている。鉄の音は離れた場所にいる私たちでさえ耳を覆いたくなるほどつんざき、観客の士気を上げる。

 ウオオオ、と立ち上がる観客たち。その視線の先は闘技場の一角が集めていた。牢のような鉄格子がはめられた出入口。ゴゴゴゴゴと砂埃を舞い上げながらゆっくりと開く。やがてその中から入ってきたのは────

「…………何やってんだ、アイツは?」



「…………何やってんだ、俺は?」

 ジルベールは中に足を踏み入れた途端、そう思った。思わず踏みとどまるが、背中を強く押されてバランスを崩しながら中に入る。その途端開かれていた鉄の門が閉じられ、逃げ道を閉ざされた。

「この中で精々罪を償うことだ。白髪の盗人が。」

 大男が鉄門の向こうから言う。ジルベールは何かを言いたげに振り返るが、無駄だとため息をついた。

 それにしてもすごい人の数だ。今にも溢れそうじゃないか。

(それよりも、参ったなあ。良心でやったことが仇になるとは。)

 手には一見槍とも見える杖、ではなく、粗末な長剣を持たされている。槍は先程男達に奪われてしまった。


(まさかあの獣少年を捕らえようと、歯のついた罠を仕掛けた密猟者と間違われるだなんて。)

闘技場コロシアム


 火の谷の唯一の観光名所。活気盛んな火の谷の性質が具現化したような施設。

 常に一般公開されていて、入場料が少しかかる。主に剣闘士グラディエーターと呼ばれる、闘技場で戦うことだけを仕事としている人や、一般人に雇われて闘う傭兵マーセナリーなどがその剣技を競う場である。

 魔法系統の戦士は出場一切禁止。物理攻撃系VS物理攻撃系が主な戦闘スタイルだ。申請をすれば、その他の物理攻撃系の戦士や、一般人も参加することが出来る。

 普段は火ギルドに登録している戦士たちの訓練の場となっている。また、罪人の公開処刑などもここで行われるそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ