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第3夜

 森の中は背の高い木が密集している。しかし不思議と明るく、空気も気持ちいい。この森だけ空間が違うかのようだ。

 しばらく木と木の間をすり抜けながら歩いていると、少しひらけた場所に出た。そこには透明な池があり、風もないのに波紋を立てている。池の中心からは今まで見たことのないほどの太く大きな樹が一本、堂々と立っていた。太いつるが蛇のように絡みつき、立派な幹を締め付けている。見ているだけで不思議と力が湧いてくる、神秘的な大樹だ。

 池の中を見てみると、白い魚のようなものがスイスイと泳いでいる。たまに小さな笑い声が聞こえ、水草や石の間に隠れるのだった。

(キレイ……)

 池の中を泳いでいた白い魚が、私の目の前でピタリと動きを止める。そして人間のような腕を伸ばし、私を誘った。よく見ると魚ではない。白い小さなそれは、二本の細い脚もあり、頭部からは長い髪の毛がゆらゆらと揺れている。つられて足を一歩前に出した。


「────止まれ」

 突然頭上でした声に驚き、はっと我に返る。遠くで聞こえる鳥の鳴き声。目の前には透明な池があり、私の片足は池の上。あともう少しで、全体重をその片方にかけるところであった。

「わわ、わ、わ!」

 バランスを崩し、尻もちをつく。白い小さな生き物はもういない。

(今、私何をしようと……?)

 振り返ると、そこには不機嫌そうな顔をした青年がいた。水色で外ハネの髪の毛は右側が編み込みにされている。ペリドットをはめ込んだような瞳は真っ直ぐに私を捉えている。

 一目見てこの青年が噂の魔法使いなのだと気づく。なぜなら、その手にはオーラをまとった杖を握っていたからだ。

「今のは低級の精霊だ。いたずらが好きで、人をからかって笑う奴らだ。というか、また侵入者か……ここまで辿りついたのはお前を含めて、いち、に、さん………まあどうでもいいや。あんた、早くここから立ち去れ。今なら見逃してやる」

 旅に出ると言い立ってから約一日。実際旅に出てから約十分………。こんなに早く見つけることが出来るなんて、私ってもしかして、もしかして……

「ついてる!?」

「……泥がついてる」

「あ、あの!私、ナターシャ!黒の魔王を討伐する旅に出ているの!君、マジシャンでしょ?山を越え、谷を越え、海を越え!壮大な冒険が私達を待っている!私と一緒に魔王討伐の旅に行かないかい!?」

 バァァァン、とこれが漫画ならば効果音が聞こえてきそうだ。両手を広げ、大げさに勧誘してみた。どうだろう。完璧じゃないかな、コレ。

 青年は目をぱちくりさせたかと思うと、にっこりと笑った。やった、これは完全にOKということでは……

「帰り道はあちらでございます」

にっこり。右手で促された。

「……帰りません」

「帰れ」

「帰りません!」

「帰れ」

「帰らない!」

「帰れ」

 しばらくこの押し問答が続き、青年の顔にもだんだんとイラつきが見えてきた。声が低くなり、それでも私は帰らないと言い張る。

 そしておよそ三十回めの「帰らない」の最後の「い」で、とうとう彼は痺れを切らした。

「あーーもう!何で毎回毎回こうなるんだ!…………よしわかった。仲間に入ってやる」

「本当!?」

「ただし条件がある」

 青年が手で風を切る。ぴたり、その人差し指は、まっすぐ私の目の先で止まっていた。一瞬、息を呑む。青年の瞳がギラリと鋭く光った。

「この森の中を少し歩いたところに、いちばん高い樹が生えている。その樹のてっぺんまで登って見せろ」

 拍子抜け。もっと難しい、無理難題を押し付けられるかと思った。それを青年はいたって真面目な顔で言うものだから、思わず吹き出してしまう。

「なぁぁんだ、そんな事か!おっけーおっけー、木登りは任せてよ。だてに田舎暮らししてませんから!」

「ああそうだな。あんたなら木登りくらい平気でできそうだ。ただし…」

 腕をぐるぐる回して準備運動をする私を冷ややかな目で見ながら、青年は続きの言葉を口にした。


「オレの攻撃を全てかわす事ができたうえでなら、な。」

【世界観説明】


 遅ればせながら、世界観の説明をさせていただきます。

 この国では突如として訪れた異変、黒の魔物たちが国民たちの平和を脅かしています。黒の魔物につきましては本編にて説明がされますので、それまでお待ちください。

 また、この国では『メラージアの経典』という言い伝えがあります。ちなみに国の名前は本編ではまだ出てきませんが、『メラジアス』です。


〈メラージアの経典〉

『この国の教えでは、誰もが心にガラスの破片を持っているという。ガラスの破片というのは、己の弱さ、執着、後悔…。それらが心を覆いつくしたとき、人は人を襲う魔物へと変化を遂げるだろう。』

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