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第10夜

「決着をつけてしまいましょう。」

 モドの顔に笑みはない。鼻から大きく息を吸うと、ゆっくりと口から吐き出した。

「………アインさん。」

 唐突に呼ばれたアインは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに目の前の敵へと目を向けた。

「何?」

「これが続くんですよね。」

「………」

「旅に出るということは、こういう事なんですよね。」

「…………まあな。」

 ぐぐ、モドの手に力が入る。私にはこの会話がどういう意味なのか分からない。魔物がゆっくりと体を出して近づいてくる。私は焦って会話に割り込んだ。

「……どういう……?だ、だけど、さっきの攻撃は通用したけど、先生がこの魔物に不利なのは変わらないじゃん!どうやって倒すっていうの?」

 金色に光る太陽が、次第に下がっていく。このままでは、夜になってしまうかもしれない。そうなると、黒い魔物たちを認識しづらくなる。

 モドは遠くを見ている。目の先には広大な海。波間がオレンジ色に染まった、ヘリックが旅に出た大洋。そして、二度と戻らなかったヘリック……。

「魔法には物理を。物理には魔法を。近接系の魔法には広範囲による攻撃が可能な魔法使いをパーティーに組むのが常識です。」

「え!?何…急に」

「風属性の攻撃は、主に広範囲による魔法攻撃が多い。魔力が多いがための特権です。もちろん例外もいますが………対して水属性の攻撃は、範囲が狭い、近接系の魔法攻撃。これも例外はあり。完全に不利です。」

「そんなことは分かって……」

「でも、効かないわけじゃない。」

 急に何を言い出すのか。風と水の相性の悪さを語ったかと思うと、効かないわけじゃないって………。

 確かにそうかもしれないが、効いてもあまりダメージが与えられないのが現実。それをモドが知らないはずがない。

「水属性による風属性へのダメージは少ない………。それは重々承知です。それだったら……」

 にっ。モドが口角を上げる。さっきまで表情が硬くて緊張しているようだったのに、いつも通りの笑顔になった。

 その顔を見て内心ほっとしたのもつかの間、モドの頬を流れる冷や汗が目に入った。

 いったい、何をする気………。


「もっと強い力を引き出して、風属性をねじ伏せてしまえばいいんですよ。」


 衝撃的だった。モドとは思えない脳筋っぷりだ。力を力でねじ伏せる……単純で古典的というか………。

 アインとジルベールもぽかんと口を開けている。モドはハハハと笑う。出会って二日。いつも通り。いつも通りだが、私には無理をしているようにしか見えなかった。

 モドが私たちに目配せをする。いや、目元は見えないのだが、多分目配せした。

「僕の近接魔法で敵を一網打尽にします。アインさんの広範囲の魔法はサポート系、攻撃に関してはあまり効果がない。ナターシャさんは弓……物理攻撃は効果的ですが、ヒット率が低い。」

 冷静な分析。学校の先生のような雰囲気が醸し出される。

「だから二人にはサポートに入っていただきます。魔法と弓で敵を近くまでおびき寄せます。そして最大限近づいたら、僕の召喚魔法で攻撃を仕掛けます。その時僕らにも影響が出るかもしれないので、アインさん、最後はシールドのようなもので僕らを守ってください。」

「……了解。」

「わかった!」

「お、俺は………?」

 戸惑いながらジルベールが尋ねる。モドはジルベールの杖をじっと眺め、曲線に沿って指を流した。

「ジルベールさんは司教ビジョップ……。ということは、魔力を供給することも可能ですね?」

「はい……」

「貴方は僕に魔力を与え続けてください。これから召喚する精霊は上級精霊なので、魔力の消耗が激しい。先ほどネレイスを召喚してしまったので、僕の体内に残っている魔力だけでは恐らく無理でしょう。」

「は、はあ………」

 モドは大丈夫です、とジルベールに呟く。にっこりと笑い、背筋を伸ばし、肩に手を置く。ジルベールの顔の緊張が少し和らいだような気がした。

「貴方と僕で召喚するんです。大役ですよ?」

 しっかりしてくださいね、と言って肩を叩く。ジルベールは杖を握り、口を結ぶと静かに頷いた。

「ロザリーさんは……?」

 私は後ろを見やる。ロザリーは相変わらずそこに立ち続け、下を向いていた。美しく垂れ下がる髪の毛に、朝のような元気さは無い。

「今はそっとしておいてあげてください。あんなに項垂れてしまっている彼女に指示するなんて、僕にはできない。ここまでついて来たのは彼女自身です。あとは………ロザリーが決めることです。」


 モドは前を向く。アインとジルベールはモドの近くで杖を構える。私はロザリーのことが気になっていたが、頭をぶんぶんと振って考えを紛らわせた。

 足のベルトに刺した矢を引き抜く。私がやるべき事はただ一つ、魔物たちを誘導することだ。

「それじゃあ皆さん……お願いしますね。」

 じりじりと近づいてくる黒いモヤのような魔物。血のように赤い涙を流す目が、暗闇の中で浮いている。胸糞悪い唸り声に、腐敗臭。

 やがて痺れを切らし、魔物が飛び込んできた。離れた場所で魔法を作動する魔物に目掛けて、私はスタートダッシュをきめた。

【水ギルド】


 水ギルドは六代精霊の一人、ウンディーネの加護を受けている。唯一海に面する土地が開けており、外国からの輸入や輸出はこの土地で行われる。また作物も豊かで、比較的土地の痩せた火の谷から火属性の魔物がやってくることが多いため、この位置に水ギルドが設置されている。

 火属性に強く、風属性に弱い。保持する魔力は風属性ほど多くなく、近接系の魔法…召喚士やヒーラーが多い。また、それなりに物理系もいる。

 知識が豊富なのが特徴。

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