第11夜
倒れてから三日後、ようやくジルベールは目を覚ました。あの後私はアインと一緒に増援部隊と戦った。と言っても、私はほとんど役に立っていなかったが。
倒れたジルベールはギルドに連れていかれ、治療を受けていた。その間私はアインと、ちょっとした言い争いをしていた。
「やっぱり旅に回復系は欠かせないって!」
「それは分かってる。だけどアイツの戦い方は捨て身すぎるからアイツを仲間にするのは反対だ」
「お互いを支えあってこその仲間でしょー!」
「出発したばかりの非公式パーティーだよ?そんなお荷物は持っていけない」
「お荷物って……アインの毒舌魔王!」
「ナターシャのゴリラ女」
「………」
「……………」
その後無言で取っ組み合いをしていると、通りがかったギルドのマスターに笑われてしまった。
三日ぶりに目を覚ましたジルベールは、腰をさすりながら起き上がった。そして看病してくれていた女性を見ると、小さく悲鳴をあげてビクッとした。女性はジルベールに、にっこりと笑いかけると、満足した風に部屋を出ていった。
「良かった!ジルベールさん大丈夫?」
「あ、ありがとう……すみません、もう少し離れて下さい…………」
腕で壁を作られ、少し寂しさを感じながらも一歩後ろに退る。アインは部屋の扉にもたれかかり、私たちの様子を見ていた。
「助かった、んですね………本当に良かった。君と、そちらの魔法使いの方も…ありがとうございました」
「いやいや、私の方こそだよ!あの時助けてくれなかったら私死んでたよ。私はナターシャ。ホーリー村から来たの。あっちはパーティーのアインで、一緒に黒の魔王討伐の旅に出るんだ」
ジルベールは目を見開いた。苦笑いされるか呆れられるかのどっちかだと思っていたが、彼は黙って手元に目を落とした。毛布を強く握り、何度も何かを言いたげに息を吸っては喉を詰まらせている。やがて意を決すると、ぽつりぽつりと言葉を選びながら話し出した。
「…俺は……数年前、ランサーからビショップに転職しました。……最後に行った討伐で、俺は急に恐ろしくなった。あの魔物達も、元々は俺たちと同じ人間だったんだ……そう思うと、体が強ばって動かなくなった。まるで足の裏が地面に張り付いてしまったようだった。…その後はよく、覚えていませんが…………………初めてパーティーで死人が出ました。俺が、防ぎきれなかったから……」
「………。」
「もう誰かが傷つくところを見たくない。そう思い、戦うことから目をそらしてきました。でも、それじゃダメなんだ……これじゃあ、俺は死んだあの人に顔向けできない………!」
言葉の奥から、泣き叫ぶのような声が聞こえてくるような気がした。ジルベールは千切れそうなほどに毛布を握りしめていた手を離し、ベッドから素早く立ち上がった。そして私とアインを交互に見、腰を深く折った。
「俺を、パーティーに入れてくれませんか!?」
まさか自分から言ってくるとは思わず、私は呆然としてしまう。頭の中で言葉を反芻し、やっとその意味を理解した。
「…………ッ、もちろ」
「オレはまだ認めてない」
言葉を遮り、アインが前に立つ。まだ言っているのかと睨もうと思ったが、アインの目はいたって真剣だった。
ジルベールは顔を上げ、真っ直ぐにアインを見つめる。
「オレは思ったことをそのまま言葉にしてしまうから、悪気はないよってことが前置き。オレはあんたみたいな危ない戦い方をする奴とは、一緒に戦いたくない。正直」
「………承知しています」
だから、とジルベールは続ける。
「そんな自分を変えるためにも旅に同行したいのです。お願いします、俺も連れていってください!」
ジルベールは床に手と膝をつき、頭を下げてお願いしてくる。その様子には流石のアインもぎょっとし、私と目を見合わせた。
頭をぽりぽりとかきながら、
「えーと…あんた、いくつ?」
「…?俺は二十三ですが……」
「一番年上なのに土下座はやめてくださいよ。そういう熱意には弱いんだよ、オレ」
気まずそうに後ろ向き部屋を出ていこうとするが、途中で立ち止まり、
「あと、オレはあんたの普通の喋り方の方が好感度わくね」
と言い放つと扉を開けて外に出て行った。
私は床に座り込んだジルベールと二人きりにされてしまった。アインのあれはオーケーということだろうか。そうだろうか。きっとそうだよね。アインのお許しも出たところで、私は胸を張ってジルベールを歓迎した。
「ジルベールさん、よろしくお願いします!リーダーは私、ナターシャが務めさせて頂いております!」
「は、はぁ……」
「さ、仲間となった証として握手を交わしましょう!」
「えッいや………」
私が手をジルベールの前に差し出すと、彼は困惑したようにおろおろと目線をさまよわせた。手を握ろうとしてはやめ、引っ込めてしまう。
「…やっぱり、女の子は苦手?」
「すみませ、…ごめん………」
「ううん、いいの!でもどうして?女の子を苦手になった理由があるの?」
ジルベールは目をぎゅっとつぶり、昔のことを思い出すように語る。その神妙な面持ちに、私も喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
「────髪の毛が」
「え?」
「長い髪の毛が、毎回ドアの取っ手に絡まっていたんだ。昔はギルドで寝泊まりしていたから数人とシェアハウス状態だった。ある日その事に気がついてから、毎朝毎朝部屋から出るたびに取っ手に長い髪の毛が絡まっていて………多分それから、特に髪の毛の長い女の人は苦手で…………」
「そ、それは確かに…怖いね…………」
ひくりと口角が痙攣する。その話だけは、聞かなければ良かったと思った。




