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100メートル

作者: 八尋蓮

綺麗な空色のワンピースを着たお姉さんが『今日は、一日中快晴です!』と笑顔で言っていたのが嘘のように、地面は黒く染まっていた。

 


 (……まさか降ってくるんなんて……

 運がないというかなんというか)

テレビの予報が告げたように、私が出掛けるときは雲一つない綺麗な青で、これは良いと言わんばかりに外へと出たらこれだ。

雨が降るなんてこれっぽっちも思っていなかった私はいつもは鞄に入れている傘も家に置いてきている。

 どうせ後は帰るだけだから、濡れようが濡れまいがどちらでも良い、それに家に着いたらすぐにお風呂に入れば良いかと思い立つも、ふと私の腕の中にはずっと欲しくて堪らなかった好きな小説の新刊がある事を思い出す。


 ――さすがに濡らすわけにはいかない。

と思った私は、既に雨の中へと踏み出していた歩みを急いで戻す。上を見上げるも空は拗ねたままだ。

 何か無いかと周りを見渡すもコンビニなど傘を置いてそうな所は何処にもなかった。唯一あるのは、100メートル先に見えるカフェと思われるお店。

 

 (止みそうにないな……本屋さんからはだいぶ離れてしまったし、いっその事あそこまで走ろうかな?

でも、急に雨に濡れた女が入って来たら、驚かせちゃうかな?

だけど立ってるのも疲れてきたし、背に腹は替えられない!

よし! 決めた)

 

 そうと決まれば! と今まで雨を防いでいてくれた所から出ようとした時


 「――待ってください!」

と後ろから男性の大きな声が聴こえ、ビックリした私は転びそうになるのをなんとか我慢しその場に止まる。


 (……危ないっ! 何!?)

 そして、声がした方へと振り返るとギャルソンのような制服を着た一人の男性がこちらへと向かって走ってくる。

 

 「――良かった! 間に合って」

 

 「あの……何か?」

 声をかけてきた男性にそう言うと

 

 「ああ! 急にすみません!

 ナンパとかそういうのじゃないんですよ!?」

 その男性は、私が怪しんでるのを感じとったのか、焦りながら否定する。男性は焦りからか顔をみるみる赤く染めていく。

 そんな男性を見た私はつい笑ってしまった。


 「――!?」

 

 「あっ、ごめんなさい! あまりにも焦ってるからつい」

 私がそう言うと、男性は今度は恥ずかしそうに

 「いえ……こちらこそすみません。

買い出しの帰りに、ふとこちらを見たら、貴女がこんな雨の中、傘も差さずに何処かへ走っていくのが見えたので、気づいたら声をかけてしまいました」

 買い出しの帰りだという男性を見ると、確かに食材などがたくさん入った少し重そうな買い物袋を手に持っている。

 

 「声をかけた後に余計なお世話だったかもしれないと思ったんですけど、やっぱりこの中を傘を差さずに行くのは大変かなって思いまして……

 あの、良かったらこの傘使ってください。」

そう言って、男性は私に傘を差し出してくれた。

 

 「そんな! 気にしないでください!

 私、少し遠いですけど、あそこのお店に走って行って、雨宿りさせてもらおうと思ってたんで大丈夫ですよ! 私なんかよりお兄さんの方がお仕事中なのに制服も食材も濡れたら大変ですよ!」

と焦って返すと、男性は納得したような顔をした後、少し考え始めた。

 

 「そうだったんですね。……あの、実は今僕が帰ろとしてるの、ちょうど貴女が走って行こうとしたお店なんです。だから、こんな傘で良かったら一緒に行きませんか?

そうすれば、僕も貴女も濡れずに目的地へ行けます!」

 と悪戯っ子のような笑顔で私を見つめる。

 その笑顔を見た私は気づけば、

『じゃあ、よろしくお願いします』と返していた。

 



――今、知り合ったばかりの人と相合傘なんて少し恥ずかしいなと思いながら、私達はお店に着くまでの100メートルの距離を歩く。

 そんなたった100メートルという距離にも関わらず私達は盛り上がっていた。話題は私の腕の中にある小説。

お店へ行くきっかけになった小説のファンだという彼。

『あの巻のあそこが良かったですよね!』など他愛の無い話をし、気づけばお店へと着いていた。

 


 共通点があったということもあってか、さっきまで早く雨宿りがしたくてしょうがなかったのに、今は不思議と早くお店に着いた事が残念に思えた。

 「ここまでありがとうございました。お忙しいのにご迷惑おかけしてすみません。」

 

「いえ!気にしないでください。

まさか、自分の好きな本の話が出来ると思っていなかったので凄く楽しかったです。こちらこそありがとうございました!仕事頑張れそうです」

と笑顔で言ってくれるに彼に嬉しさがあふれ出てくる。 


 「私も楽しかったです! お仕事頑張ってください」

 でも、彼をこれ以上引き止めるわけにはいかないと思い、お店へ入ろうとした時。

 

 「――あの!!」

 最初と同じように彼の声が聴こえ、振り返るとそこにはさっきよりも顔を赤くした彼が私に

 「あの、もし良かったらなんですけど……

名前、教えてください」と言ってきた。


 そんな彼に私は……

「良いですよ。私の名前は……」

 

 


 

 



 …………




 


 大きな窓から見える、太陽は私を暖かく照らしてくれる。


気づけばここの席は私の定位置になっていた。

 (今日はあの時とは違って、凄く良い天気だな)

 そう思いながら暖かい光に目を細めているとカタンっと小さな音と共に何かが、置かれた事に気づき振り返るとそこには、私が頼んだカフェラテと今日の日替わりケーキ、4つに少し小さく折られた紙が置かれていた。

 そして「お待たせしました」と聴きなれた声が聴こえ、視線を上に上げると笑顔の彼が立っていた。

 彼は私と目が合うと紙を指差し、口パクで後で見てと言って笑顔で裏へと下がっていく。

 彼に言われた通り、メモを広げるとそこには



 

 『待たせてごめんね。

もう少しで上がれるから、そしたら本を買いに行こう。

そうだ、あと食べたい物も考えておいてね』

 と書かれていて、私はすぐに彼へ笑顔で返事を返す。

 

 



 今日は1年ぶりに私の好きな小説の新刊が出る。 




 

まだまだ誤字脱字などある、私の未熟な文章、物語、そして後書きまで読んでくださった皆様

本当にありがとうございます。

また、もしお見かけする事がありましたら、今よりも少しでも上達した物語を皆様にご覧いただけるように

精進していきたいと思います。


本日はたくさんある作品の中から私の小説を読んでくださりありがとうございました。

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