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 グランドを容易に確保できるオーシャン香取コーチからの練習試合の誘いが頻繁になり、毎週土日は必ず試合が入るようになっていた。

 当然、子どもたちの交友関係も変わり、試合前後の光景からはオーシャンの子どもたちとみひろたちが昔からの友だちのように感じられるほどになっていた。

 「成島コーチ、ぜひオーシャンの子たちにも指導してやってください」

 香取コーチにそう頼まれた僕は、大人フットサルで肉離れした右脚を引きずりながら指導することもあった。そういう経緯もあって僕もオーシャンの子どもたちにすっかり溶け込んでた。

 しかし、みひろチームとオーシャンが姉妹チームとして仲良くなればなるほどいろいろな情報が子どもたちや保護者から流れ込んでくる。

 その最たるものはオーシャンというチームと香取コーチとの関係、温度差だった。

 オーシャンは昔から地域の少年団のお手本のようなチームで、勝利至上主義とは無縁のチームだった。しかし、香取コーチが指揮をとるようになってから、練習だの試合だのと、土曜日どころか日曜日までもサッカーに侵略されるようになり、保護者の不満が募っていた。

 「大東さんはすごいですよね」

 「何がですが」

 「大東さんはいつも全員参加で試合ができていますから」

 「そうですね」

 「オーシャンは必ず誰かが休んでしまうようなチームなんです。だから試合を休まないように指導しなくてはいけなくて・・・」

 みひろチームは確かに試合どころか練習すら休む子はいない。雨で中止と思われる練習日でも全員参加するぐらいだ。

 でもウチには欠席禁止などという馬鹿げたルールは存在しない。ウチの子たちが休まないのは子どもたちにとって楽しくてしかたない場になっているからだろう。

 僕の指導理念として僕も子どもたちもみんな楽しくないといけない。それは練習の合間の休憩時間ですら同じだ。いつも楽しそうに活動している子どもたちを自然と応援したくなるのが親だと思う。だからみひろチームの親たちは子どもたちの想いを尊重し、家族の日程をずらしてまで大東SCに協力してくれているのだ。

 香取コーチのように「オレはボランティアでやってやっているんだ。つべこべ言わずに従え!」と、威圧的な態度では誰も協力してくれない。サッカーコーチのボランティアがそんなに偉いことではないと香取コーチは気づいていない。

 ゴールデンウィークも香取コーチはグランドを取りまくっていた。

 ゴールデンウィーク後半の初日の五月三日、大東SCとオーシャン合同主催の練習試合が企画されていた。どのチームを招待するかは、香取コーチとウチの山下コーチが相談して決定した。

 試合は県の中央を流れる相模川の河川敷グラウンドで行われる。この河川敷には野球場が8コート、サッカー場が3コートもあり、一番奥のサッカーコートは少年サッカーコートが3面も取れる。そのコートのすぐそばには新幹線が絶えず走っており、川べりではパラグライダーやラジコンヘリが音をたてて飛んでいて、とても賑やかな場所だ。

 いつもの遠征と同じく、子どもたちで満員となった車で河川敷グラウンドに到着すると、すでに香取コーチは息子の史嗣とともにグラウンドにいた。僕らを見つけると、たばこを吸いながら香取コーチが近づいてきた。

 「おはようございます。今日は一日よろしくお願いします。朝からお恥ずかしい話なんですが・・・」

 「どうしたんですか?」

 「今日ですね、ウチのチームの奴ら、半分休みでですね、十人しか来ないんですよ。なので、もしよかったからその都度、大東さんから一人借りることはできないかと・・・」

 「はい、みひろチームはいつもどおり十三人いますから問題ありませんよ」

 「ありがとうございます。昨日も、絶対休むなよって各家庭に連絡入れたんですが・・・。親子そろって馬鹿にしてる奴が多すぎる。一体、誰のために試合をいれてやってるのか、休んでいる奴らは分かっているのか。もう頭に来たから、あいつらのために試合なんか絶対に入れてやらねー!」

 スカイブルーの親たちはチームではなく家庭を大切にしたのだ。香取コーチと子どもたち、保護者との間に信頼関係がないのだから、結果がこうなることは目に見えているのだが、それを考慮しなくても今日はゴールデンウィーク真っ最中。そんな時に休みなく試合を入れる方が本当はどうかしているのだ。旅行だって子どもが小学生のうちでないとなかなか難しくなる。だったら貴重な時間を家族の思い出作りに使いたいと考えるのは当然だ。

 ましてオーシャンの親たちは三月、四月とほぼ休みなく練習試合の主催チームとしてお当番にかり出されているのだ。その点、試合にお呼ばれされてばかりのみひろチームの親より過酷だ。

 香取コーチが朝日に照らされ真っ赤な顔をしている隣りで、僕はずっとそんなことを考えていた。みひろチームにはそんな問題もなく目の前で、みひろのかけ声に合わせて、みんな元気よく体操をしている景色がとても幸せに感じた。と、同時に、子どもたちの笑顔のために協力してくれる家族の方々にも改めて感謝の気持ちでいっぱいになったゴールデンウィークとなった。

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