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 大東SCには雨天中止の連絡網はなく現地判断なので、実際にグランドに行ってみないと中止なのか決行なのかは分からない。もちろん大雨の日に練習に出かける子はいないだろうが、問題なのは、小雨の時や、雨があがったばかりの時だ。子どもたちにはグランドに行ってみるか、自主判断で休んでしまうのかの二者択一しかない。

 前日から降っていた雨が霧雨程度となったある日曜日の朝のこと。

 「今日は間違いなくグランドは水浸しだな」と思いながら念のため小学校に向かうと、案の定グラウンドはぐちゃぐちゃだった。

 朝礼台そばのピロティには藤村監督や大口コーチなど数人のスタッフと各学年の子どもたちがちらほら見える。今日の練習は中止と高を括ったコーチ陣が談笑する中、練習開始時間が近づくにつれて、子どもたちが集まってくる。よく見るとその大半がみひろ組の子どもたちだった。

 雨が完全に止んだ朝七時半。みひろ組23人、欠席2人。他の学年は一番多く集まった五年生チームでも6、7人で、一番やる気にかける石投げ四年生チームにいたっては2人だけ。監督も「本当にあの子たちはサッカーが好きなんだな」と目を細めるほど目立っているみひろ組。

 みひろたちは当然のようにボールを手に持ち、僕の周りに集まってくる。

 「このグラウンドじゃ、練習無理っぽくない?」

 僕の言葉にたくさんの子たちが反応する。

 「えーっ、練習しないの?」

 「せっかく来たんだからやりたいよ!」

 「みんなで水たまり埋めようよ」

 水たまり処理の方法は雑巾で吸ってバケツに回収する方法しかなく時間的に不可能だった。でも子どもたちに喜んでもらうためにコーチをしているのだから、こんなことに屈している場合ではない。どうすべきか僕の脳がフル回転する。

 その結果、水たまりとは無縁の場所を発見した。その場所は今僕らがいる校舎のピロティから見えるグランドの向こう側。鉄棒が連なるグランド隅と外柵フェンスとの間の幅4メートル、長さ15メートルぐらいのやや傾斜のある土の部分で、脇には大きな松が三本生えており、まさかサッカーなんてできるところではなかった。

 子どもたちにその場所しかないけれどそれでもやりたいかを尋ねた。すると元気な声が返ってきた。

 「やりたい!」

 「やるやる!」

 「よし行こう!」

 みんな笑顔で、遠足にでも行くかのようにウキウキ感全開で、ボールを手に水たまりを飛び越えながらグランドの向こう側へと列をなした。

 結局、他の学年は練習中止となったが、みひろ組だけはいつもと変わらぬ、笑顔のまま練習を行った。鬼ごっこ、パス練、ドリブル競走など、内容は限定されていたが、いつもと違う趣を持った練習に子どもたちは大満足の様子だった。

 五月も終わりに近づき、天気予報では梅雨入り予想日が発表される中、市の前期リーグ戦が始まった。

 この前期リーグ戦は、強豪が同リーグに入らないように別々の枠に入り、その他のチームは抽選によってどこのリーグに入るかが決められる。

 みひろ組は去年の後期リーグ戦では、最下位リーグで優勝したものの、スポーツ少年団交歓会では藤川FCに惨敗し、強豪と呼ばれる藤川FC、FC陸奥小、善幸SCといったチームの背中はとても遠い。

 みひろ組のリーグ戦会場は徒歩15分の高田小学校。FC高田と大東SCは仲良しチームで、11月の大東杯にFC高田を呼び、三月の高田杯に呼んでもらうという親密さだ。さらに、FC高田のコーチたちは大東SCのグランド事情が悪いことも知っており、頻繁に練習試合に誘ってくれるとても温かい人たちばかりだった。

 リーグ戦は毎週土曜日午後一時から4試合前後組まれ、1チーム1試合もしくは2試合行うように調整されている。たとえ第一試合にしか試合がなくても、コーチが第二試合や第三試合のレフリーに割り当てられていることが多く、結局チームは会場校に長時間滞在することになる。

 試合メンバーは前日に夜に僕一人で決めていたが、平日練習時に大まかなポジション練習をするため、極秘事項というわけではなかった。

 しかし、今回のリーグ戦でのメンバーを考えるとどうしてもうまくいかない問題点があり、山下コーチに相談した。

 「今、みひろ組には25人いて、そのうちリーグ戦に参加するのは一年生を除いた20人です。この20人を1試合で全員出場させるのは正直無理です。そこで、高田のコーチにお願いして、毎週練習試合を入れてもらってくれませんか」

 山下コーチは快諾し、高田のコーチに話をつけてくれた。その結果、大東SCは毎週必ず二試合やれることとなった。これは一位突破を目指すみひろ組にとってかなりの追い風となるに違いなかった。

 大東小学校から高田小学校まで遠足のように2列で歩く。村山公園近くの歩行者専用信号は青の時間が10秒しかなく、急いで渡ってギリギリセーフ。バス通りの歩道は狭く、自転車が来るたびに全員を立ち止まらせる。小路から出てくる車にいちいち気を配り、信号では右左折してくる車やバイクを牽制しながら坂道を登りきってようやく高た小学校に到着。

 予め指定された場所に荷物を降ろし、僕らコーチと子どもたちは会場到着時の儀式を行う。コートのタッチライン中央に設置された本部テントに行って挨拶をするのだ。本部テントには通常、会場校チームのお当番ママやコーチたちがいる。その人たちに対し、整列したうえでみひろが「大東SCです。気をつけ、礼!」と掛け声をかけると、みんなで「お願いします!」と声をそろえる。そしてグランドに対しても礼をして、荷物置き場に戻る。その際、試合用ベンチ席の前は通らないように指導する。みひろ組のしつけはコーチである僕の責任なので、細かなことでも気づいたことはひとつひとつ注意していた。

 二試合あるうちの一試合は公式戦のためのベストメンバーで勝ちにいった。二試合目は練習試合だったが控え組だけ出場させて負けたりしたら、仲良くやってきているみひろ組の子どもたちの間に亀裂が生じかねないと考え、練習試合も勝ちにいった。

 そのため、キーパーやディフェンス、トップ下など核となる部分にはベストメンバーを起用し、その他はすべて控え組の子を出場させるようにし、自由に伸び伸びプレーさせた。悠李と同じ二年生の女の子コンビ、みゆきとマリが嬉しそうにニコニコしながらピッチに入っていく姿が印象的だった。

 結局、六月の終わりまで続いたリーグ戦は、練習試合を含め全勝で幕を閉じた。誰か一人が頑張った成果ではなく、控え組のみゆきやマリたち、ベストメンバーのみひろや健吾たちみんなで勝ちとった後期一位リーグ戦への切符だった。

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