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第1章 大東サッカー少年団

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 朝の赤い太陽の光が咲き始めた桜を温かく照らしている春休みの日曜日。

 目の前に四人の新一年生が好奇心に満ちた表情でボールを手に持って並んでいる。

 その四人を見つめながら、「ボール、めちゃくちゃ大きいなあ」と、四人の小ささよりもサッカーボールの大きさに目を奪われた。

 練習開始時間の午前八時になったので、四人の前に立ち、話を始めようとすると、朝礼台のほうから女性の声がした。

「すみませーん!」

 目を移すと、四年生大輝ママが、新一年生と思われる子とともに走ってきていた。

 大東サッカー少年団は、今年五人の新一年生を迎え入れた。オリジナルファイブだ。

 僕は、コーチ八年目にして初めての一年生担当となった。今まで担当してきた子どもたちと異なり、無垢な分、重い責任を感じていた。

 さっそく、ひとりずつ自己紹介をしてもらう。新一年生のシャツには名前の書かれたゼッケンが縫い付けられており、それを見ながら一人ひとりの声を聞いた。五人の声を聞き終わったところでみんなに質問をしてみた。

「幼稚園からサッカーをやっている人は?」

 手を挙げたのは、(はやて)奏斗(かなと)、遅刻してきた聖太(しょうた)の三人。実は、この三人が幼稚園からサッカーをやっているのは知っていた。この三人にはいずれも四年生の兄がおり、彼らの父もまた四年生チームのコーチとして少年団に所属していたからだ。

「てことは、悠李(ゆうり)祐平(ゆうへい)はサッカー初めてってことだね?」

 ウンッ!とうなずく二人ではあったが、幼稚園からサッカーをやっている次男三人組と同じ幼稚園に通っており、オリジナルファイブはお互いに友達同士という間柄だった。ママさんたちもいわゆるママ友の関係で、親の意向の差がサッカーを習い始める時期の差になっただけという仲良しグループなのだ。

 僕はグランドを見渡した。すでに新一年生チーム以外は練習を始めている。

 グランドの割り振りは昔から変わらない。コートは半面ずつ、東側を六年生チームが、西側を五年生チームが使用し、コート外のスペースに四年生チームと、二・三年生合同チームが入っている。

 僕と一年生の五人が立っている場所は、五年生が使っているコート脇だが、すぐそばには、ジャングルジムやのぼり棒などが張り出しており、サッカーをするにはあまりにも狭い。かといって中央に寄ろうとすると二年生三年生にぶつかってしまうという劣悪な環境。 

 さらに、その劣悪さに追い打ちをかけるのがゴール問題。六年生チームと五年生チームはグランド備え付けのゴールを、四年生チームと二・三年生チームは組立て式ゴールを使えるのだが、一年生チームにはゴールがない。

 一年生はまだキック力がないから狭いところでいいんだよと、他学年のコーチたちは思っているのだが、まったく見当違いだ。

 一年生のような幼い子は無駄に走りたがる年頃。その元気をどうやってこの狭いスペースで発散させていけばいいか。今後考えていかなければならない課題だ。

 とりあえず、この五人のサッカー技術レベルを把握したいと思い、「じゃあ、まずパス練習をしてみようか」というと、奏斗が「颯、一緒にやろう」と声をかけた。

 ポカンとしている悠李と祐平の初心者たちとは対照的に動きの速い次男三人組。コンビを作ることに慣れているのだ。

「ちょっと待って。パス練の相手は俺が決めるから」

 そうなんだという顔つきで指示を待つ次男三人組。好きな子同士でコンビを組ませるとマンネリ化するし、そのことで仲間はずれの子ができてしまう可能性があることが何よりも嫌だった。

「奏斗と颯と聖太は三人でv字型を作ってやろう。悠李と祐平は向かい合ってやってみよう」

 その様子を観察してみると、明らかに次男三人組は蹴り慣れているのが分かった。蹴るときの体の動きに無駄がない。

 一方、初心者二人組は蹴り方がぎこちない。変な力が入りロボットのようにみえる。

「どうにかして変な癖を取り除かないといけないな」

 そう感じた僕は、悠李の傍らにひざまずき、悠李の足首を前後に動かしながら言った。

「いいか。ボールが来たら靴のここにボールを当てて止める。蹴るときは蹴らないほうの足を、跳び箱を飛ぶときみたいにトンッてついたら蹴る足をこうやって振って上に動かす」

 祐平にも同じようにして一から丁寧に教えた。

 二人に付きっきりとなり、次男三人組に目を向けていないことに気づいたちょうどその時、聞き慣れた声を耳にした。

「コーチー!」

 振り返ると、数日前にこのサッカー少年団から巣立っていったヤッちゃんら数人だった。ヤッちゃんたちは僕が担当していた子たちであり、僕が運営する学習塾の生徒でもあったため、手伝いに来てくれたのだ。

「コーチ、大変そうだね。手伝うことある?」

学年で一番小さい坊主頭のヤッちゃんが、元気な顔で問いかける。

「うん、お願い。今日入団した一年生たちとパス練やってあげてよ」

「わかった。俺たち五人いるから一対一でやればいいよね」

「そうだな。頼むよ」

こうして、元六年生と新一年生が狭いスペースで向かい合ってのパス練習が始まった。そんな中で、ひざまずいて指導しているコーチがいるのは他学年の子どもたちからみれば滑稽だったに違いないが、そんなコーチを含め、一年生を見る‘コーチ’が六人になりチーム内で一番目の行き届いた学年となっていた。

 僕にはコーチとして一貫した信念がある。

『子どもたちにできるだけ楽しい思いをさせたい』

 だから、同じ練習を三十分も四十分も続けるなんて考えられないことだった。飽きさせたら負けだという思いを常にもって練習に臨んでいる。

 新一年生の初日も例外ではなく、パス練習を十五分で終わらせ、休憩の後、コーンあてゲームをやった。コーンとはパイロンとも呼ばれる、工事現場によくある赤いとんがり帽子型のもので、練習の必需品なのだが、これも上級生から分配されていくので一年生に残されるコーンはせいぜい二、三個。

 しかし、コーンについては僕の車の中に常時五個のマイコーンを積んでいたので、ほかの学年同様十個近く使うことができた。

 その後、鬼ごっこをしたりして練習終了時間の午前十時になった。

「楽しかった?」と聞くまでもない表情の五人を前にハッとした。

「やばっ!この子たちに体操やれっていってもやり方知らないじゃん」

 それを聞いていたヤッちゃんがすかさず声を発した。

「コーチ、俺たちが見本になって教えてあげるよ」

「ありがとう。大東SCの伝統を引き継がないといけないからね。じゃあ、悪いけどよろしくね」

ヤッちゃんの声掛けで一年生たちはヤッちゃんたちの元へ行き、見よう見まねで体操をする。

「一、二、三、四」

「五、六、七、八!」

ヤッちゃんの声に合わせて元気な声で体操をする一年生オリジナルファイブ。僕はみんなが使ったビブスやコーンを片付ける。グランドではコーチと六年生がグランド用ブラシで整備をしている。

 朝十時を過ぎ、まぶしい太陽の光の中、春の風が心地よく駆け抜けていった。

                        

 




 

 


 

 

 

 

                    

 


 

 

 

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