第五話
御簾の向こうに畏まっている男は、一目で武に通じている者だとわかる。
上げたその顔は、優雅さとはかけ離れていた。
日に焼けた膚、無造作に伸ばされた髭。
女御が男にもった印象は、どことなく陰気くさいというものであった。
なによりも気になるのは、この男は眇だということだ。
「伯耆守。おぬしの沈着な判断のおかげで、坊主を斬らなくてすんだ。礼を言うぞ」
「もったいなきお言葉にございます」
「ははは。そう畏まるな。とりあえず一献つきあえ」
影が瓶子を手に立ち上がった。
男―――平忠盛の盃に酒を注ぐ。
「よし、決めた。おぬしの今回の功により、その女を与えようぞ」
女御は驚いて法皇を見た。
影は呆然と忠盛の顔を見た。
「仙院・・・」
忠盛もさすがに驚いたらしく、盃を落としそうになった。
法皇は気分良さそうに、酒を口にはこんだ。
女御は恨めしげな眼で、老人を見やった。
女として嫉妬したことがあるとはいえ、実の妹だ。影の幸せを彼女は願っている。
それをこんな荒武者の醜男に!
「伯耆よ」
「はい」
「おぬし、妻はおるか?」
「お恥ずかしいながら、まだ」
「ならば、その影を正妻に迎えるがよかろう。見てのとおりの器量よしじゃ」
「ありがたく、存じます」
影!
女御は叫びだしそうになった。
なんとひどいお方。
あなた様はまことの権力者。
意のままにならぬものなど、何もない!
しかし、影はほほえんでいた。
恥じらいと希望に満ちた瞳で、男を見上げている。
女御はもう、なにも言おうとはしなかった。




