第四十七話
「女院。いかがなさいました?」
堀河が心配そうに尋ねた。
新院の御所まで来たというのに、いざとなったらためらいの心が湧き上がってきてしまった。
顕仁に会って、何を話せばよいのだろう。
おのれの業のせいで、わが子の人生も狂わせてしまったのだ。
「あら?」
堀河が物見から外の様子をうかがいながら言った。
「門の内側に車がとまっていますわ。女物のようだけれど」
璋子も、はっとなって外を見た。
ここからではよく見えない。だが、たしかに女物の車だ。
透渡殿を渡ってきた、あの若い女が持ち主か。
―――あれは・・・
あれは顕仁の中宮ではないか。
さすがに摂関家の子女だけあって優雅な容姿。
車に乗り込み、こちらに向かって来る。
車と車がすれちがおうとしたとき・・・
偶然であろうか。新院中宮の乗る牛車の物見が開いた。
賢しい顔立ちの女であった。
顕仁より少し幼い。
向こうの随身は、女院の乗る車だと気づいていないようだ。
ゆっくりと遠ざかっていく。
だが、聖子は璋子を見つめたままであった。
「行きましょう」
璋子は小さく言った。
「え?よろしいのでございますか」
璋子は物見を閉めた。
こんなに間近くで息子の妻である女を見たのははじめてであった。
―――わたしがいなくなっても、顕仁にはあの娘がいる
そう思うと、少し心が軽くなった。