第二十三話
きらめきが眼の中ではじけ、尽きることなく輝きつづける。
空は青いものだと思っていたが、海の蒼さと比べると色あせて見えるのは気のせいだろうか。
頬をなぶる風が驚くほど爽やかで。
潮のかおりが心地いい。
「海とはこんなに大きいのだな、家貞!さっき通り過ぎた小島が、あんなに小さくなってしまったぞ」
「和子は初めて海をご覧になりまするか」
家貞が笑って尋ねた。
忠盛は以前にも山陽・南海両道の海賊追討を命じられており、家貞も共に活躍したのだ。
当然海を見たことがあるし、船での長旅にも慣れていた。
「すごいものだ。果てなどないのだろうな」
清盛は舷から身を乗り出し、海面をのぞき込んだ。
碧い水面を、まるで空を飛ぶ鳥のように滑っていく。
ぼやけた地平線は空ととけ合い、このまま天にも行けそうな気がした。
淀津から船で海まで下り、もうすぐ瀬戸内海に出る。
慣れない船での旅とはいえ、彼は何ら疲れを感じなかった。
「家貞、家貞。あれは何?」
清盛は突然体を前のめりにし、遠方を指さした。
大きな、大きな船。
真っ白な帆を雄大に膨らませたその様は、紺碧の海によく映えていた。
「あれは高麗の船にございます」
「高麗?」
「海の向こう、ずっとずっと遠くにある国でございますよ」
清盛は異国の船をまぶしそうに見た。
自分の知らないことが、まだまだあるのだ。
絢爛たる都がなんであろう。
絶対の権力を有する院がなんであろう。帝がなんであろう!
「小さいな。わが世界の小ささに、今気づいたよ」