第二十話
あれに見ゆるは平家の太郎じゃ。
高足駄をはいた平太が通る。
六波羅の高平太が通る!
京童の言うにまかせて、清盛は風を身できりながら歩いていた。
右肩に太刀を担ぎ、道化師のような服に身を包んで、かこんかこんと音を立てるは高下駄だ。
付いたあだ名が高平太。
そんな彼が向かっている先は、中御門中納言家成の邸。
清盛の衛府としての勤務は、午前中には終わってしまう。
だから、継母宗子のすすめで家成邸の警護をするようになったのだ。
宗子と家成は従姉弟であり、鳥羽院の寵臣として活躍する家成の目にとまれば幸いと考えたのであろう。
おのれにも清盛と齢の近い実子がありながら、先妻の子つまりは長男として清盛を遇する継母の気持ちはうれしくもある。
しかし、彼にとって家成邸での護衛はあまりおもしろいものではなかった。
「若君っ!」
一人の青年が馬で駆けてくる。
「若君、急用にございますっ」
そう言い、清盛の警護している正面門の前で止まった。
「なんだ、貞能か」
「父上が、急ぎ若君をお連れせよと・・・」
よほど急いでいたのだろう。
貞能は息を切らしながら一気に言った。
「家貞が?なんで?」
「さあ。わたくしも急かされるままに出てきたので、理由は・・・」
「ふうん、まあいい。戻ればわかることだし・・・あっ」
「どうされました?」
「次の交代まで俺はここを動けんのだ」
「ならば、わたくしが代わりに護衛を務めましょう」
「え、ほんと」
清盛は貞能がすすめるままに彼の馬に乗り、六波羅へと向かった。