第十九話
「院、いかがでございましょう?」
忠実は鳥羽院を見た。
「私は備前守がよろしいと思いますがね」
家成は忠実に言った。
忠実はそれを無視し、院の答えを待った。
「祖父は・・・」
鳥羽院はぽつりと言った。
「亡き白河院ならば、何と決断するであろうか」
こちらに背を向けているため、顔は見えぬ。
だが、忠実には院の心中がわかるような気がした。
「備前を行かせようぞ。あやつは分別のある男じゃ」
「御意の通りに」
忠実は深々と頭をさげた。
忠盛が鳥羽にある院御所に召し出されたのは、それからほんの数刻を経てからであった。
「備前守。此度の西海における海賊追討使として、そちを派遣することと相なった。院の御心に添うよう、しかと励むように」
「はっ」
御心。
これはうまく院に利用されているのではなかろうか。
忠盛は考えた。
忠盛が西海の海賊を鎮圧できたなら、院の勢力が西国にまで及ぶことを意味している。
彼は、ふっと笑った。
利用されるということは、こちらからも利用できる余地があるということだ。
分かれ道なのだ。
わが一門の確固たる足場、追討使という立場を用いて西国に築こうぞ!
ずきり、と。
その時、左目の古傷が痛んだ。
「いかがいたした?」
「いえ、何でもございませぬ。われらが君のため、尽力いたしましょうぞ」
―――為義・・・
忠盛は左目をおさえていた手をどけた。
おぬしとわしの因縁も、ここで終わりだ。