第十八話
諸国で起こる私合戦―――。
今、各地で広がっている疫病飢饉が原因であった。
それにより保延と改元。
しかし、その効果はなく、天下に疫疾飢饉の者が充満しているという有様。
なかでも朝廷を悩ましているのが、おもに西海に出没するという海賊だ。
往復する旅客や公私の貨物の掠奪をほしいままにし、はたまた那津に寄る宋船を襲撃。
太宰府の役人や近隣の国を知行する国司からの苦情が相次いでいる。
「西国の国司に宣旨を出されてはいかがでしょう。さすれば、国内の武士の追補により、不法な輩は減るものと思いますが」
口を開いたのは藤原家成であった。
彼はよほど暑いのか、額に大粒の汗が光っている。
暑い。
たしかに、暑い。
この部屋から見渡せる広々とした池も、無風のなかでは涼をとるもののうちには入らなかった。
蝉の声も大きく聞こえる。
家成の発言で、室内の熱せられた空気がどっと流れだしたようだ。
それほどに、沈黙であったのだ。
「忠実よ。そちの考えはどうじゃ?」
鳥羽上皇は先程からずっと外に視線をやっていたが、ふと忠実を見やった。
「はっ。議定にて、備前守平忠盛、検非違使源為義のいずれかを追討使として派遣することに相なりました」
「追討使!」
家成は小馬鹿にするように言った。
「そんな大袈裟な。現地の武士だけで事足りるでしょう」
忠実は少し、眉をひそめた。
いかにも若い者の考えそうなことだ。
武をはらんだ闘争の対処法に、大袈裟などという言葉はない。
それにしても、と忠実は家成を見た。
この男のずけずけと物を言う性格には、さすがの忠実も閉口する。
同じ藤原北家とはいえ、忠実が摂関家嫡流の前関白にして内覧であるのに対し、家成は中関白道隆の後裔とはいえ傍流の諸大夫の家柄だ。
それが鳥羽院の近臣となることで公卿にまで昇ったのだから、すごいと言えばすごい。