第十五話
日が暮れてきたため、風が冷たくなった気がする。
とけかかった雪が草鞋にしみ込み、清盛はなかば跳ねるようにして歩いた。
もう、あたりは暗くなりはじめている。
彼は次の角を曲がるべきか迷ったが、結局曲がらずに真っ直ぐ進んだ。
どうやら道に迷ったらしい。
清盛がそう理解したのは、闇雲に歩き回ったあとだった。
ずずっ、と鼻水をすする。
寒さのため赤くなった鼻頭を、強くこすった。
清盛は、今のおのれの迷い犬のような状態よりも、父が迎えに来てくれなかったことを悲しく思った。
「ちがうぞ、ちがうぞっ」
清盛は大声で言いながら、首を振った。
「きっと父上は忙しいんだ」
皇族も見物する祭だ。法皇が御幸すれば警護にあたるのは当然というものだ。
「和子!」
呼ばれたことに気づかず、清盛は数歩走ったが、ふとふり向くと、ずっと後ろのほうに家貞がいた。
「家貞!」
家貞の顔が笑っているのを見て、清盛ははじめて、自分が心細い思いをしていたことに気づいた。
「和子、心配しましたぞ。おお、こんなに冷えて。御方様も案じておられます」
「すまん、家貞。道に迷ったんだ」
家貞は清盛の肩を軽くたたいた。
清盛は、父にそうされたかのように、大きな安心感が湧いてくるのを感じた。
忠盛の邸は、想像と反して地味だった。
大きいことは大きいのだが。
―――父上は、やはり貧乏なのだろうか・・・?
受領になれば儲かると、どこかで聞いたことがある。
あれは嘘だったのかな、と清盛は考えた。
財があればより広い土地を買い、人の目を引くような豪華な邸を建てたいと願うものだ。
「一番奥が、御方様の部屋でございますよ」
家貞が邸内を案内してくれた。
「御方様ってどんな人?」
「慈悲深き方にございます。やんごとなき名家のご令嬢だけあって、教養もすばらしいものです」
「ふうん」
清盛は家貞と別れ、奥へと進んだ。