第十四話
清盛は行く先々で指をさされ、正直なところうんざりしていた。
だが、なぜ自分が後ろ指をさされなければならないのか、わからなかった。
第一、ゴラクインの意味がわからない。
それよりも清盛は、今日の臨時祭の舞のことで頭がいっぱいであった。
舞手は全部で十人。
ほとんどが貴族の子息から選ばれている。
今日までにさんざん練習してきた。
なのに、舞順が覚えられない。
調楽のとき、清盛は失敗ばかりし、楽師に怒られてばかりいたのだ。
あのゆっくりとした調子を思い出し、清盛はあくびをしようとした。
「うわっ」
馬が何かに驚いたように嘶いた。
どうしたのと言いかけて、清盛は誰かが倒れていることに気がついた。
馬の脚にあたったのだ。
清盛はひらりと馬から飛びおりた。
「ごめん。大丈夫?けがしてない?」
そう言い、手を貸してやった。
清盛と同じ年頃の少年であろうか。
着ているものから、身分が高いことが察せられた。
「すみません・・・」
童髪がさらりと揺れた。
上げた顔の可憐さに、清盛はうろたえた。
清盛は同年の子どもと遊んだことがない。
だから、同い年の女の子というものを見たことがなかった。
目の前の少年を、一瞬少女かと思ってしまったのだ。
慌てて手を離そうとしたが、相手は妙に足下がふらふらしている。
仕方なく、もう片方の手で支えようとしたが、少年はふらりと清盛から離れると、そのまま人混みのなかへ消えてしまった。
あきらかに祭を見に来たのであろうに、なぜ境内とは逆方向へ行くのだろう。
清盛は首をかしげた。
「へんなの。身分も高そうなのに一人でさ」
「清盛殿。あの方がけがでもなさっていたら、とんでもないことになっていましたよ」
口取りの男が小声で言った。
「なんで?」
「あのお方は摂政忠通様の弟君、菖蒲若様でございますよ」
馬にまたがりながら、清盛は「へえ」と言った。
摂政がどれだけ偉いのか知らない。その弟というだけで、敬わなければならない理由もわからない。
清盛は少年の去った方を見た。
齢に不似合いな艶めかしさを漂わせていた。
清盛は、とんでもなく汚らわしいものに触れたような気がした。
無意識に、両手を衣服になすり付けていた。