第十一話
夜。
室内を照らす灯台の火が、ゆらゆらと揺れていた。
すき間風でも入ってきているのだろうか。
女御はそばに置いてある几帳を、少しずらした。
「・・・うえ」
「え?」
千早丸が、何かを言った。
ふり向き、女御は少年が寝言を言ったことに気づいた。
彼女はそっと、袿を肩までかけてやった。
「父上・・・」
女御は千早丸の寝顔を見つめた。
日に焼けていなかったら、おそらく肌は白いのであろう。
少々癖のある髪。
目を伏せなければわからぬ、長い睫毛。
忠盛には無論にていない。
かといって、法皇にも似ていなかった。
千早は影に似ている。
女御は思った。
「父上・・・」
先ほどよりもはっきりと、千早丸は言った。
どんな夢を見ているのか。
実の父親は、昔の女が産んだ子などには無関心だった。
備前には憎まれて・・・。
女御は袖で顔をおおった。
父と信じる人には忌み嫌われ、あんな仕打ちまでうけたのに、この子は父上と呼んでいる。
父の愛に、それほどまでに飢えているというのか。
「備前・・・わたしはそなたが羨ましい」
親子の絆とは、こんなにも綾なものなのか。