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6.岩国炎上――巨艦、復活す――

 当然、核砲弾を積んだ戦艦長門の存在を、自衛隊が看過していたわけではない。

 が、F-2戦闘機を装備する航空自衛隊第3飛行隊による第2次空対艦攻撃は、さしたる戦果も挙げられないまま終わった。空対艦誘導弾を4発ずつ携行した複数のF-2戦闘機は、全弾を戦艦長門へと発射することに成功したが、結論から言えば全弾が空中で爆発四散し、長門まで届くことはなかった。


「ストーカーよりHQ。敵直掩機の妨害により、攻撃は失敗。目標は健在。送れ」

「ストーカー、状況を詳しく報せ。送れ」

「HQ……敵レシプロ戦闘機が目標を防護するように、誘導弾の進路へ割り込んだ。我の誘導弾はみな目標へ到達せず。送れ」


 B-29重爆撃機に対する空対空特攻の再現だ。F-2戦闘機が放った必殺の空対艦誘導弾は、戦艦長門の周囲を乱舞する帝国海軍機による決死の体当たり迎撃により、全弾が空中爆発。

 当然、21キロトン級41cm核砲弾を装備する怪物は、傷ひとつ付いておらず、通常弾と核砲弾により東京湾沿岸に存在する全てを破壊しにかかった。


「我の空対艦攻撃が無力化される以上、目標BB(主力戦艦)を撃破するには海自の護衛艦隊か潜水艦隊による艦対艦攻撃しかない」


 それが航空自衛隊航空総隊司令部(東京都福生市)の出した結論であった。

 空対艦誘導弾は100%に近い精度で、敵空対空特攻により防御される以上、海中を進む対艦魚雷のような迎撃不能な兵器により、戦艦長門を攻撃するしかない。


「すぐに海上自衛隊潜水艦隊司令部(神奈川県横須賀市)に――いや、呉基地の第1潜水隊群(広島県呉市)に目標BBの攻撃を要請」


 つまり戦艦長門を撃破出来る唯一の方法は、海上自衛隊潜水艦隊による艦対艦攻撃しかない。護衛艦では敵水上艦の妨害を受けるが、潜水艦ならば敵潜水艦に攻撃を妨害されることはない(太平洋戦争時の潜水艦は、対潜攻撃ができない)し、現代潜水艦の隠密性があれば前時代的装備が採用されている敵哨戒網も突破できるはずだ。

 防衛省と統合幕僚監部といった自衛隊トップは緒戦の執拗な空爆により機能停止、海上自衛隊護衛艦隊司令部や潜水艦隊司令部も戦艦長門の核攻撃により、文字通り消滅しており、航空自衛隊航空総隊司令部は直接、広島県呉市の第1潜水隊群に攻撃を要請した。


 だがその頃、西日本の海も燃えていた。


 沿岸開発により絶滅に追い込まれた大型水棲生物たちの怨嗟と、この世に生を受けながらも自沈処分に付された大怪物の遺骸が結びつき、戦艦長門を超越する鋼鉄の凶器が蘇生した。

 豊後水道の海面を割って出現したのは全長は約235m、常備排水量は4万トンを超える超ド級戦艦。自沈前に取り外されたはずの41cm連装砲は完全に再生しており、彼女はその砲塔を旋回させて甲高い咆哮を上げた。

 そして実戦を一度も経験しなかった5基の41cm連装砲が、火焔を噴く。

 次の瞬間、その場に居合わせた外国籍のタンカーが巨弾の直撃を受け、跡形もなく吹き飛んだ。黒煙と火柱が上がった後には、何も残らない。

 彼女の次なる目標は、愛媛県南西の愛南町。

 41cm砲弾が標高500mの権現山を飛び越え、中心市街地を襲撃する。紫電改展示館に飛び込んだ一弾は、引き揚げられた紫電改と周囲の展示物を一緒くたに粉砕。また別の一弾は、高さ約110mの宇和海展望タワーを半ばから圧し折り、それから駐車場に着弾して炸裂。十数両の乗用車が衝撃波で吹き飛ばされ、炎と鋼鉄の塊へと変わる。

 さらに弾道が延伸されると、41cm主砲弾は中心市街地に密集する警察署や小中高学校を無慈悲に破壊していった。


 長門型戦艦を改良した超ド級戦艦――加賀型戦艦『土佐』。

 彼女は自身の無念と海に堆積した怨讐を晴らすため、豊後水道を北上しはじめる。


 時を同じく山口県岩国市柱島近海にて、海底に沈んだ水兵たちの怨恨が謎の爆沈を遂げた超ド級戦艦を復活させた。

 長門型戦艦2番艦、陸奥。

 爆沈後の彼女の主砲やスクリューは日本各地で展示されており、柱島近海にはない。が、爆死した水兵たちの記憶と想念が、それを補った。

 完全再生した戦艦陸奥は、太平洋戦争時に活躍出来なかった無念を晴らすように、怨敵との交戦を望む。

 41cm連装砲が指向された先にあるのは、海上自衛隊・在日米軍・民間機が利用する岩国基地(山口県岩国市)。超ド級戦艦の猛射により、東京防空戦に参加するため、空対空ミッションの出撃準備を整えていたF-35B戦闘機やF/A-18戦闘攻撃機は飛び立つことなく、地上で粉砕される憂き目に遭った。


 ……そして超ド級戦艦2隻の復活は、ほんの始まりに過ぎない。


 いま日本列島近海で、世界中の海で。

 怨恨を抱えたままの死霊たちが物理的な復讐の手段を得て、蘇ろうとしている。

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