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4.東京防衛戦――東部方面総監部の苦悩――

 一方、陸上自衛隊第1師団第1普通科連隊(東京都練馬区)は、未だ会敵さえ出来ていなかった。

 その理由は単純で、大渋滞に巻き込まれたためである。

 執拗な空爆により東京都心が機能停止。警視庁本部も破壊されたことで、混乱状態に陥った警視庁各警察署は満足な避難誘導を行うことが出来ず、1000万を超える東京都民が無秩序な避難行動を開始した。そのため幹線道路、生活道路を問わず、避難民による渋滞が発生。

 73式トラックを装備する自動車化歩兵連隊に過ぎない第1普通科連隊は、この渋滞に巻き込まれる形で江東区や港区、品川区への戦域移動が出来ないまま、立ち往生の憂き目にあった。


「第1師団司令部より報告。首都高速5号池袋線は複数箇所の事故により、交通不可能とのこと」

「先発した第1普通科連隊第2、第3普通科中隊は国道254号線、大塚三丁目交差点(東京都文京区)まで進出したものの、渋滞のため前進不能。車輌をお茶の水女子大学・筑波大学キャンパス内に待機させ、徒歩による移動を開始しています」

「73式トラックが足の第1普通科連隊では、都心投入に限界があるか……」


 正反対に帝国陸軍の進撃は、極めて順調であった。

 江東区に強襲上陸した幽鬼の群れは、江東区民を虐殺しながら二手に分かれた。

 一派はJR総武線沿線を目指すように真っ直ぐ北上し、2時間とかからず先頭集団が両国・錦糸町駅にまで到達し、西進の動きを見せている。

 もう一派は北西へと進み、執拗な空爆により廃墟となりつつある千代田区を目指していた。


「このままでは無抵抗のまま、千代田が、永田町が陥ちるぞ」


 その動きを第1師団第1偵察隊の報告から知った東部方面隊総監部(東京都練馬区)の幕僚たちは、焦燥に駆られた。

 言うまでもなく、東京都千代田区は日本国の要人たちが集う政治の中枢だ。猛烈な空襲の最中で生き残り、身動きがとれなくなった要人たちが未だ残る千代田区に、彼ら暴虐の侵入を許すわけにはいかない。


「即時投入可能な予備戦力は我々にはありません」

「第12旅団(群馬県北群馬郡)はどうだ。空中機動で一挙、皇居および赤坂御用池まで進出。要人の捜索と後送。そして江東区・品川区より侵攻する敵勢力より、千代田区・中央区・港区の防衛を開始する」

「第12旅団は未だ戦闘準備中です。それにご存知の通りですが、空中機動旅団と言ったところで、旅団――いや、連隊単位でのヘリボーンも出来ません。輸送ヘリを往復させる必要があり、まとまった戦力を投入するには、かなりの時間を要するかと」

「かといって第1師団第32普通科連隊(埼玉県さいたま市)では、第1普通科連隊の二の舞だ」


 結論を言えば、第1師団と第12旅団を擁する東部方面隊総監部が、東京防衛のために出来ることはこの段階ではなかったと言っていい。大規模な武装勢力による東京侵略という想定外の下では、東京都内の交通は機能せず、結果、自動車化歩兵師団に過ぎない東京都練馬区の第1師団に華々しい活躍の機会などなかった。


 東京都心の防衛戦は、陸上自衛隊の不利から始まった。

 戦力の逐次投入を余儀なくされた陸上自衛隊とは対照的に、敵勢力は無尽蔵に近い兵力を江東区に揚陸している。この圧倒的な侵攻軍に抗戦するのは、徒歩にて戦闘区域入りした第1師団第1普通科連隊の一部と、第12旅団の運用する輸送ヘリに搭乗した中央即応連隊の一部でしかない。

 勝ち目など、端からなかった。

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