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3.千葉西部防衛戦――人外悪鬼、強襲上陸す――

 航空自衛隊航空総隊と在日米軍第5空軍の空対空攻撃は反復して行われているが、依然として帝国陸海軍の姿を模した空翔ける悪鬼たちは、猛然と東京都民の殺戮を続けていた。また東京湾に遊弋し、沿岸へと艦砲射撃を繰り返す連合艦隊に対しては、F-2戦闘機による空対艦攻撃が行われているが、未だ殲滅はかなっていない。

 無数のレシプロ戦闘機や、少数ではあるが存在する事故機のF-4EJやF-15Jによる妨害のために、航空自衛隊の空対艦攻撃は順調に進んでいないのが現実だった。


 こうして東京上空と東京湾で激しい攻防戦が続く最中、幻の本土決戦がはじまった。


 若洲海浜公園(東京都江東区)や葛西臨海公園(東京都江戸川区)、稲毛海浜公園(千葉県千葉市稲毛区)に旧軍の上陸用舟艇や、海中から突如として出現した97式中戦車チハが乗り上げ、更に幽鬼の群れ――日本国に怨恨を抱く死者たちが上陸。内陸部への侵攻を開始する。

 97式中戦車をはじめとする装甲車輌が、放棄された乗用車を粉砕しながら進み、逃げ遅れた人々の背中へ7.7mm機銃弾を浴びせていく。さらに腐乱死体めいた怨霊の群れが人外じみて疾駆し、生者に飛びかかり、組み伏せては絞殺し、あるいは殴殺していく。

 彼らに慈悲はない。

 幼児を庇おうとする母を銃剣で突き殺し、まだ3歳にもならない子を舗装路に叩きつけて殺す。老人を突き飛ばし、馬乗りになって拳を振り下ろし、顔面を粉砕して殺す。拳銃を構えた警察官の腕を斬り飛ばし、二の太刀で袈裟懸けに斬殺する。


 俺たちは私たちは、こんなにも苦しい思いをしたのに、お前らは我々を省みることも悼むこともせず、ただ忘れていく、無視していく。

 そんなことなど、許さない。

 彼らの怨恨は深い。ただ自身らを助けてくれなかった、無視した、そして忘却して――弱者を踏み躙った上で成り立つ日本国と日本国民を、彼らは許さない。


 上陸した彼らと最初に激突したのは、千葉県警警備部第1・第2機動隊であった。

 県立幕張海浜公園(千葉県千葉市美浜区)および稲毛海浜公園に強襲上陸した幽鬼の群れは、瞬く間にJR京葉線まで侵攻。JR海浜幕張駅およびJR検見川浜駅周辺の生者を殺戮し尽くし、先頭集団は東関東自動車道・国道14号線のラインまで進出しようとしていた。

 そこに国道14号線を北上してきた千葉県警第1・第2機動隊が到達し、激しい攻防戦が始まった。


「下車ァ! 総員下車ァ!」

「排除しろ、排除ォ――!」

「オォオオォオオオオオ!」


 警備車輌から続々と下車し、腐乱死体めいた異形へと殺到する濃紺の群れ。濃紺の出動服と黒のボディアーマーを纏い、ライオットシールドと警棒を持った機動隊員達は、一斉に手近な目標に殴りかかる。

 盾の角で掬い上げるような打撃を顎へ叩きこみ、一撃で相手を昏倒させ、更に警棒を喉元へと突きこんで怯ませ、前蹴りで転倒させる。

 もはや彼らもこれが非常識的な緊急事態だということを理解しており、相手を検挙する気はさらさらなかった。あるのは相手を全力で倒し、この殺戮を停止させようという意識だけだ。

 放水車の援護や拳銃といった小火器の存在もあり、亡者の群れはじりじりと濃紺の横隊に圧迫され、後退を余儀なくされていく。頚椎を粉砕され、顔面を破壊され、内臓を破壊された悪鬼たちは、二度目の死を与えられて物言わぬ肉塊にへと変わっていった。


 が、機動隊の優勢もそう長くは続かなかった。

 死者の軍隊の本隊――大日本帝国陸軍の戦車第4師団とそれを援護する歩兵第2連隊が、濃紺の戦列を一瞬で蹂躙する。中戦車の戦車砲が釣瓶撃ちに撃ち込まれ、放水車が炎上し、盾を構えた機動隊員を複数名まとめて吹き飛ばされる。


「SATの援護は!?」

「くそったれ、SATでも無理だッ相手は戦車だぞ!」


 さらに小銃を構えた歩兵たちの猛射が始まると、いよいよ機動隊員たちは退却を開始した。当然、ただ逃げるわけではない。中隊単位で市街地へ逃れ、市民の避難を援護する――それが重火器を持たない機動隊に出来ることであった。千葉県警機動隊は軍事組織と真っ向勝負するための組織ではないし、そういう装備もない。

 千葉県警機動隊は、JR稲毛駅とJR千葉駅方面へと分かれて撤退を開始。

 それを追撃するようにこれまで東京方面に指向されていた艦砲射撃と空襲が、千葉方面を蹂躙しはじめた。


「前進中の敵集団、連射で撃て!」


 更に北西では東京ディズニーリゾート(千葉県浦安市)から上陸し、浦安市民を虐殺しながら江戸川を渡河し、千葉県市川市街に侵入した敵勢と第1空挺団(千葉県船橋市)隷下の普通科大隊が、交戦を開始していた。

 市街地の建造物を活用して防衛線を構築した普通科大隊は、自動小銃と軽機関銃による濃密な火網で亡者の群れと帝国陸軍歩兵師団の先鋒を絡めとり、前進を阻止する。戦車連隊の97式中戦車と陸海軍機が、歩兵師団の死兵たちを援護するが、市街地を転用した防御陣地は容易く殲滅できるものではない。

 逆に航空自衛隊の第303・第306飛行隊のF-15Jがエアカバーに入り、さらに陸上自衛隊の対戦車ヘリコプター隊(千葉県木更津市)が航空支援を開始したため、帝国陸軍の亡霊たちの前進は停滞。

 AH-1S対戦車ヘリが撃ち放つ20mm機関砲の火線とロケット弾の火力を前に、97式中戦車が次々と大破炎上し、亡霊たちは劫火に呑まれて焼失していく。熾烈な航空攻撃を掻い潜った中戦車も、市街に潜む普通科隊員が携行する対戦車兵器により、すぐさま撃破される。


 ……最後にはおそらく物量に優る帝国陸海軍が、第1空挺団隷下普通科大隊を圧倒し、防衛線を突破するであろう。

 それでもいまは普通科大隊は敵攻勢を挫折させ、後背に広がる船橋・市川市民が避難する貴重な時間を稼いだのであった。

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