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落日――日本国自衛隊vs大日本帝国陸海軍――  作者: 河畑濤士
【後】『天皇作戦』/『落日作戦』
21/22

21.日本国自衛隊vs帝国陸海軍――『落日作戦』――

「『落日作戦(Operation Setting sun)』」


 B-2ステルス爆撃機『スピリットオブアメリカ』が、ゆっくりと爆弾倉を開く。

 収められていたB-61核爆弾が、まずは1発――千葉県千葉市稲毛区の高空へと解き放たれた。白銀の弾体は、朝日を受けてキラキラと輝き――次の瞬間には人工の太陽と化し、地表に巣食う人外悪鬼どもを、都市ごと焼き払った。さらにB-2は2発目をその北東、千葉県千葉市美浜区に落とす。熱線と爆風、放射性物質を含んだ爆煙が、全てを呑み込んだ。

 その後、B-2爆撃機スピリットオブアメリカは、千葉県市川市、東京都江戸川区、同江東区、同中央区、同千代田区、同港区、同品川区を核攻撃。16発格納されていたB-61核爆弾をすべて投下し終えると、世田谷区方面へ向かい、西の空へと脱した。レシプロ戦闘機はこれを追撃しようとしたものの、高高度を時速1000kmで高速飛翔するB-2を捕捉できるはずがなかった。

 16発の核爆弾が炸裂した後には、廃墟以外には何も残っていない。

 帝国陸軍の主力部隊は、物理的な拠り代から魂魄まで焼滅した。


 東京湾に浮かぶ鋼鉄たちもB-2に反応し、対空戦闘のために主砲・副砲を旋回させ、仰角を取り始める。

 だが、あまりにも遅すぎた。

 連合艦隊の上空に2機目のB-2ステルス爆撃機『ダークエンジェル(スピリットオブジョージア)』が到達し、生者の切り札――数十キロトン級戦術核爆弾を投下。そのまま北の空へと変針して飛び去る。自由落下する核爆弾に対し、戦艦長門は長大かつ大重量の41cm連装砲の砲身を持ち上げ、迎撃態勢を取る。そして冷戦時代めいた核弾頭を用いた対空戦闘を――。


 東京湾内を有機物を一瞬で発火・蒸発させる熱線が駆け巡った。爆風と熱線、衝撃波、高波――破滅が東京湾上と東京湾沿岸を襲った。海面が持ち上がり、巨大なきのこ雲が発生する。


「やったか――」


 浦賀水道南方に待機する護衛艦隊は、核爆発時に発生する電磁波の影響により、戦艦長門をはじめとする帝国海軍水上艦の艦影を見失った。また東京湾内で帝国海軍連合艦隊を監視していた潜水艦せとしおもまた、東京湾南部へ潜行・退避したために、状況が分からない。核爆弾を投下した当のB-2爆撃機ダークエンジェルも同様、核爆発の影響と敵の迎撃から逃れるために、戦果を確認することは困難である。

 もちろん陸上自衛隊や航空自衛隊の諸部隊も放射性降下物による被曝を恐れ、撤退を完了しているために、敵情を確かめることは出来ない。

 敵が健在か否かは、核攻撃の影響が去った後に潜水艦せとしおが、潜望鏡により確かめることになっている。


 しかし――。


 突如として東京都千代田区上空で、数万度の火球が発生した。

 熱線と衝撃波が空中に解き放たれ、周辺空間の全てを破壊しにかかり、すでに2度の核爆発により荒廃しきった千代田区の地表を、再び爆風が洗い流す。B-2爆撃機はその大破壊に巻き込まれ、影も形もなく蒸発した。

 誰もが一瞬、B-2の事故かと考えたが、すぐに違う、と思い直した。


「せとしおより。目標未だ健在!」


 4000℃の温度まで熱せられた東京湾上に、未だ戦艦長門は浮かんでいた。全身を赤熱させながら、艦上構造物のほとんどを爆風により吹き飛ばされながらも。それでもなお21キロトン級核砲弾が装填された41cm連装砲をB-2が飛び去った北の空へと向けていた。

 日本国が前進する過程で切り捨てられていった者たちの怨恨は、核兵器を以てしても焼却しきれない、ということか。

 他の艦艇はすべて海面下へ沈んだ。が、戦艦長門はのろのろと南へ変針し、41cm連装砲を旋回させはじめる。彼女は未だ日本殲滅を諦めていなかった。死ね、死ね、死ね――われわれを見棄て、忘却して手に入れる繁栄など、全部ぶち壊してやる。東京湾を出て、全国を核攻撃するつもりであった。

 その怨恨の塊へ、陸海空自衛隊の砲爆撃がはじまった。90式艦対艦ミサイルが、227mmGPS誘導ロケット弾が、ヘルファイア対戦車ミサイルが、89式長魚雷が、JADMが、核攻撃を耐えきった瀕死の怪物へと叩き込まれていく。

 融解して変形した装甲板を貫徹し、炸裂する艦対艦ミサイル。爆焔を噴き上げる甲板。舷側や甲板に陸自のロケット弾やミサイルが突っ込み、衝撃と猛火が長門を襲う。そして喫水線下には続々と長魚雷が突き刺さり、これが致命傷に繋がった。

 浸水が始まり、徐々に戦艦長門が沈みはじめる。それでも戦艦長門は41cm連装砲を海面へ向け、おそらく核爆発による対潜戦闘を行おうとする――そこに時間差をつけて発射された艦対艦ミサイルが突っ込んだ。

 最後の武装が、天高く噴き飛んだ。砲塔の内部や天蓋が一緒くたになったものが噴き上がり、砲身は根本から折れ曲がる。装填されていた41cm核砲弾もまた、焼失。

 そして戦艦長門は、完全に沈黙した。

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