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2.東京湾海戦――長門の復讐――

 東京湾内では鋼鉄と鋼鉄による壮絶な殴り合いが始まっていた。

 海底より突如浮上し、破壊活動を開始した大日本帝国海軍艦艇。それに即応し、戦闘行動を開始したのは、横須賀を母港とする在日米軍のミサイル駆逐艦と同巡洋艦であった。アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦が、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦が、躊躇なくハープーン対艦ミサイルを発射し、東京都内へ射弾を送る駆逐艦や巡洋艦を一瞬で屠る。

 現代テクノロジーの塊である現代艦艇と、彼らが持つ誘導弾の前では、半世紀以上前の戦没艦など単なる標的に過ぎない――本来ならば。

 が、米海軍第7艦隊の空母打撃群や駆逐隊にとって不幸だったのは、戦場が東京湾内であり、現代海戦では想定されない超至近距離から戦闘が始まったことだ。

 最初に生者の海軍の側から脱落したのは、タイコンテロガ級巡洋艦『シャイロー』だった。ろくな装甲をもたない現代艦艇の『シャイロー』は、帝国海軍の駆逐隊の弾雨を浴びて炎上。さらに突如飛来した41cm主砲弾が艦腹を貫き、内部で炸裂。無念の断末魔を上げながら、彼女は大破着底した。

 次に撃破されたのは、アーレイ・バーク級駆逐艦『ベンフォールド』。こちらも艦尾に酸素魚雷を受け、航行不能になったところを41cm主砲弾の一撃を受け、真っ二つに折れて沈んでいった。


「対水上戦闘用意」

「SSM(艦対艦ミサイル)戦、攻撃はじめ」

「SSM1番から2番まで発射」


 在日米軍所属艦艇が戦闘を開始するのに若干遅れて、海上自衛隊の護衛艦が個別に艦対艦戦闘を開始する。都心空襲により指揮系統が混乱しており、さらに平時ということもあって積載している各種実弾の量は心許ない。それでも護衛艦は東京湾内の武装勢力を駆逐するために、果敢にも戦闘を開始した。

 火焔の柱と黒煙が巻き上がる決戦場と化した東京湾内。

 目標を逸れた艦対艦ミサイルが、東京アクアライン『海ほたる』に突入して炸裂。衝撃波と爆風が付近に停車していた車両を吹き飛ばし、爆焔とともに屋根が噴きあがる。

 海上自衛隊第1護衛隊の護衛艦『いかづち』を狙い、阿賀野型軽巡洋艦『酒匂』が放った主砲弾は、大きく目標から逸れて横須賀市街に落着。一弾は複数のアパートを滅茶苦茶に粉砕し、残る数弾は市立中学校の校舎へと吸い込まれ、3階部分のすべてを総浚いに吹き飛ばした。


「ハープーン、攻撃はじめ」


 護衛艦『はたかぜ』が放ったハープーン対艦ミサイルは、『酒匂』が生み出す濃密な対空弾幕を掻い潜り、艦体前部に突入して炸裂。前部甲板が炎を噴き出し、次の瞬間には大爆発を引き起こした。前部主砲2基の残骸が大空へと跳ね上げられ、炎が前部艦橋を舐める。それからそう時間も経たず、『酒匂』は前のめりに沈んでいく。


「ハープーン、残弾なし」

「敵影が多すぎる……主砲攻撃はじめ」


 が、いまのが『はたかぜ』最後の対艦ミサイルであった。日米海軍の艦対艦ミサイルは、一方的に大日本帝国海軍艦艇を屠っていくが、1隻あたりの携行弾数は数少ない。

 そのため最後には両陣営艦艇が、主砲による殴り合いを演じることになった。

『はたかぜ』の127mm単装速射砲に捉えられた敵駆逐艦は、見る見る間に上部構造物を捥ぎ取られ、煙を吐きながら戦闘不能に追い込まれる。正確無比なレーダー射撃。砲戦の正確さでも、日米海軍が死者の海軍よりも優れている。

 だがしかし結局のところ、東京湾海戦を制したのは、大日本帝国海軍の艦艇を模した怨霊たちだった。


 現代海戦では時代遅れの重装甲と威力過大の主砲を備えた超ド級戦艦、長門型戦艦『長門』。彼女は76mm速射砲や127mm速射砲による射撃を跳ね返し、お返しとばかりに41cm連装砲と14cm副砲の乱打を海自・米海軍艦艇に浴びせかけ、次々と撃破していく。

 最後まで奮戦していた『はたかぜ』もまた、14cm単装砲の火網から逃れることが出来ず、後部・中央部と命中弾を受け、戦闘不能に追い込まれた。


 それから戦艦『長門』はその41cm連装砲を横須賀に向け、破滅をもたらす一弾を放った。


 横須賀上空に達する41cm砲弾。

 次の瞬間、人工の太陽が発生した。

 41cm核砲弾――『長門』が被爆したクロスロード作戦と同様の、21キロトン級原子爆弾が核分裂によって生み出した膨大なエネルギーは、暴虐の熱線となり、横須賀を襲った。

 地表の可燃物質の全てが瞬く間に灰燼と化し、暴力的な衝撃波が地表面に存在する構造物を押し潰す。爆風が横須賀基地と横須賀市街を駆け抜け、呑み込み――そして真空状態となった爆心地へとまた爆風が戻っていく。この間に地表にいる人々は蒸発し、炭化し、大火傷を負い、爆風に吹き飛ばされ、ガラス片を浴び、瓦礫に叩きつけられて、無慈悲に殺害されている。このとき、横須賀港に待機中の原子力航空母艦『ロナルド・レーガン』は、1機も艦載機を送り出すことが出来ないまま、無力化された。

 残ったのは見渡す限りの廃墟。

 そして上昇気流が生み出す、カリフラワーめいた漆黒の入道雲であった。


 横須賀市内の死者・行方不明者は、12万5000名。

 海上自衛隊と在日米軍は横須賀を失ったことで、東京湾の制海権を喪失した。

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