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落日――日本国自衛隊vs大日本帝国陸海軍――  作者: 河畑濤士
【後】『天皇作戦』/『落日作戦』
19/22

19.日本国自衛隊vs帝国陸海軍――『天皇作戦』発動――

「……ということです。そのため昭和天皇は平和を大切に思い、日本国憲法に従った行動を守ることにお努めになりました。また昭和天皇が崩御され、日本国憲法および皇室典範の定めるところにより即位したわたくしも同様、先の大戦では多数の人々が亡くなり、また苦しみを受けたことを思うと誠に心が痛み、私は日本のみならず、世界全体が平和であるように願ってきました。また常に国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えてきました」


 払暁。日本国存亡を賭けた一大作戦、『天皇作戦(Operation Emperor)』が発動した。あらゆる通信手段、通信回線を用いて解き放たれたのは、京都御所で録音された今上陛下のお言葉である。死霊の軍隊が装備する無線機やラジオがみな一斉に、陛下の肉声を流しはじめ、東京都内で未だに生きている防災無線が、陛下のお言葉を木霊させる。


「しかしながら此度の武力攻撃の発生を考えると、私の努めにはまだまだ至らぬ点があったように思います。私は国民統合の象徴であることを自覚し、時に人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添うことも大切なことと考えてきましたが、それでも個々の社会問題や事件の解決に関しては、力を尽くすことができなかったように思います。国民の幸福を祈る天皇としての責任を果たせなかったことは、遺憾に堪えません」


 効果はすぐに現れた。

 東京都内で陸上自衛隊前線部隊と相対していた大日本帝国陸軍の軍装をした死霊たち――その一部が、ただただ無力に崩壊していく。今上陛下の実質的な謝罪のお言葉に、ただただ増幅されてきた殺意と憎悪が和らぎ、この世に顕現し続けることが出来なくなる死兵が続出した。


「だからこそ、私はこれ以上に戦禍が広がることを望みません。戦後、連合国軍に占領された日本は、平和主義と民主主義を守るべき大切なものとして、日本国憲法を作り、今日の日本を築きました。私は、戦争で荒廃した国土を再建し、改善していくため当時の我が国の人々の払った努力に対し、深い感謝の気持ちを抱き、そして今日の日本を大切に思っています」


 そして前線に展開する陸海空自衛隊の諸部隊が、攻撃準備を整えた。

 この『天皇作戦(Operation Emperor)』に日本国自衛隊は、持てる限りの弾薬と人的資源を注ぎ込む――次はない、最初で最後の大会戦。


「私は、日本国がこれからも幾多の苦難を乗り越え、国民福祉の一層の向上を図るため不断に努力するとともに、世界の平和と繁栄を目指し、自然と文化を愛する国家として存続することを願っています」


 そのために日本国自衛隊は、生存を賭けて闘争に臨む。

 今上陛下の言葉が終わると同時に、現代を生きる陸海空自衛隊と無際限の怨恨から成る大日本帝国陸海軍の大会戦が始まった。

 第一撃は陸自・空自の遠慮ない対地砲爆撃。

 在日米軍が東京都心へ核攻撃すると決まった以上、賠償の問題はもう存在せず、砲爆撃をしない理由がない。関東一円に展開した陸自特科部隊の遠慮ない集中的な効力射がはじまった。227mmロケット誘導弾、155mmりゅう弾、203mmりゅう弾が東京都心の高層ビル群を粉砕し、破片が下界の死霊将兵の下へと降り注いだ。さらに炸裂したりゅう弾の破片と爆風が、無防備な敵歩兵たちを薙ぎ倒し、GPSにより誘導された227mmロケット誘導弾が、待機中の装甲車輌の車列に突っ込み、大爆発を引き起こす。

 さらに戦後第4世代ジェット戦闘機のF-15Jの編隊が、限界ぎりぎりの低空を高速で翔け抜け、すれ違いざまに都心上空の戦前レシプロ戦闘機を、一航過で撃破できるだけ撃破した。

 そして僅かに遅れて侵入したのは、十数発の航空爆弾を抱えた第3飛行隊のF-2戦闘機の編隊であった。蒼翼が過ぎ去った後に残るのは、大破壊の痕。投弾を終えて身軽になったF-2戦闘機は、空対空特攻を試みるレシプロ戦闘機の突進を悉く避けて退避していく。それを追い縋ろうとするレシプロ戦闘機は、次の瞬間に乱入してきた新手――第305飛行隊のF-15が乱射するAIM-9サイドワインダーを受け、空中にて火達磨と化す。

 対する帝国陸海軍の迎撃は、以前ほど激しくなかった。明らかに今上陛下のお言葉が効果を表していることが分かる。ほとんど一方的に陸自・空自は火力を投射していく。


(まるで総火演がお遊びだ)


 前線に居合わせた自衛官の誰もが、そう思っただろう。

 だがしかし怯むことなく、ただただ任務を遂行していく。

 作戦後には戦闘力のいっさいを失うこと覚悟で、この『天皇作戦』に総力を挙げる航空自衛隊航空総隊全力のエアカバー。その下で陸上自衛隊の対戦車ヘリコプター隊が、東京都心への突入を開始する。

 ロケット弾と対戦車ミサイルを雨霰と撃ちつけて、普通科隊員にとって脅威となり得る97式中戦車や、迫撃砲や重機関銃が配置された火点を丁寧に、容赦なく叩き潰していく。

 勿論、死霊の群れはこれを無視することが出来ない。高空に待機していたレシプロ戦闘機や、東京湾に遊弋する艦隊を守っていた艦載機は、みな低空へと殺到し、対戦車ヘリを駆逐しにかかる。

 その瞬間、航空自衛隊航空総隊司令部は湧いた。


「釣り出せました!」

「よし、在日米軍司令部のスタッフに報告しろ。もちろん、高高度に侵入するB-2ステルス爆撃機を、二次大戦時のレシプロ戦闘機が迎撃出来るとは思えんが」


 ここまで『天皇作戦』は順調に進んでいた。

 このあとは陸上自衛隊の機甲科・普通科部隊が敵の前衛部隊を圧迫し、この攻勢があくまで通常兵器を用いたものであることを、偽装し続けることになっている。

※劇中の台詞の大半は、今上天皇陛下のお言葉を掛け合わせた“キメラお言葉”になります。作者による政治的意図はありません。大戦に関するお言葉は、今上陛下が即位された際の記者会見や誕生日の記者会見の際に、陛下がお話しされたものです。

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