16.陸海空決戦――在日米軍の提案――
「Operation Emperor.Operation Setting sun.――皇帝、いや、天皇作戦と落日作戦?」
冷戦時代ほどの重要性はないものの、米軍にとって日本は未だに東アジアにおける不沈空母であり、策源地であり、他には得難い戦略拠点である。つまり日本国が消滅することは、極東から中東に至るまでの米軍のプレゼンスの喪失を意味する。
彼らには陸海空自衛隊を援助しない理由がなかった。
また同盟国を見棄てたとなれば、米国の威信に傷がつく。それは「強い米国」を標榜する新大統領にとって、到底許容出来ないことであろう。
日本政府が消滅した以上、参戦に法的問題はつきまとうが、そもそも緒戦で横須賀の在日米軍基地と空母打撃群が核攻撃を受けている。また詳細は不明だが、沖縄県に展開する第3海兵遠征軍が武装勢力と交戦中との情報もあり、陸海空自衛隊を援助し、武装勢力へ反撃する大義名分は立つ。
さらに在日米軍司令部の分析は、陸海空自衛隊の先を行っていた。
全世界を監視する米軍の情報網は、謎の武装勢力が太平洋戦争の激戦地から湧き出すのを捉えており、また武装勢力が運用する航空母艦の所在と形状まで掴んでいた。その外見は大日本帝国海軍所属艦艇『赤城』『加賀』『飛龍』『蒼龍』――等等。半世紀以上前の旧式空母を運用する国家や武装勢力など、当然ながらこの地上に存在するはずがない。
つまり。
「“超常現象により復活した大日本帝国陸海軍が、日本国と同盟国に駐留する我が軍に攻撃を”――このレポートをまとめたアメさん参謀の顔が見てみたいよ。幽霊がわざわざ半世紀越しに祟るかよ」
「そう考えるしかない、とは思いますが。ただ問題は在日米軍司令部が提案してきたこの一連の作戦です」
隣接する在日米軍司令部から航空自衛隊航空総隊司令部へと提案された作戦案は、今日日トンデモ仮想戦記でも見ないような、荒唐無稽な代物であった。航空総隊司令部の幕僚たちは、誤訳の可能性と米軍参謀の頭と自身の目を疑った。
在日米軍司令部による大日本帝国陸海軍殲滅案は、『天皇作戦(Operation Emperor)』と『落日作戦(Operation Setting sun)』の連続する2作戦から成る。
まず謎の武装勢力が、この世のものではない幽鬼であることが大前提。
だからこそ発動される第一撃が、武装勢力を心理的・物理的に無力化する『天皇作戦(Operation Emperor)』。昭和天皇の所謂玉音放送、そして停戦を訴える今上天皇陛下の玉音放送を利用可能なあらゆる通信手段、あらゆる周波数で武装勢力へと流し、動揺を誘う。同時に陸海空自衛隊が全力陽動を開始し、東京湾に遊弋する敵艦隊の直掩機を低空に張りつける。
そして敵武装勢力に決定的打撃を与えるのが、『落日作戦(Operation Setting sun)』。B-2戦略爆撃機による東京湾敵艦隊と東京湾沿岸の敵地上部隊への核攻撃、そしてICBMによる沖縄県内敵地上部隊への核攻撃により、日本国内に存在する敵武装勢力を一掃する。
残る和歌山県南方沖に展開中の敵機動部隊は、海上自衛隊のサポートを受けた米原子力潜水艦がこれを殲滅。その後、日本近海に潜伏する敵潜水艦を時間をかけて狩り出し、3ヶ月以内に海上交通を復活させる。
航空自衛隊航空総隊司令部の幕僚たちがまず感じたのは、米軍関係者の焦りだ。
半世紀以上前の昭和天皇の玉音放送と、現代の天皇陛下のお言葉により敵の混乱を狙い、核攻撃で一挙に事態解決を図る。天皇陛下のお言葉で敵を恐慌状態に陥れるなど荒唐無稽も極まりないし、敵に占領されているとはいえ、ここは日本国である。にもかかわらず、核攻撃という手段を選ぶなど、人道という概念をどこかに置いてきたとしか思えない。
「問題は沖縄県への核攻撃だ――那覇や恩納と連絡がとれないせいで、状況がまったく分からない」
「陸自の西部方面総監部にも問い合わせましたが、やはり戦況はまったくの不明とのことです」
実を言えば沖縄県の戦況に関して、陸海空自衛隊が把握出来ていることはまったくなかった。沖縄県と本州の物理的距離はやはり遠い。陸海空自衛隊の前線部隊は目の前の武装勢力との戦闘にかかりきりで、気づけば沖縄県内の自衛隊駐屯地・基地と連絡がとることが出来なくなっていた。
「あちらさんの本命は核攻撃だ。これを止めさせることは出来ない――というよりも確かに核攻撃でもしなきゃ戦局は覆せない。こっちも望むところだ。だが核攻撃の前に当該地域の県民を避難させなければ」
本州の陸海空自衛隊実戦部隊の各司令部は、2日目にしてようやく意識を沖縄県にフォーカスしようとしていたが――もう遅い。
死者と生者が混濁し、無慈悲な闘争を繰り広げ、繰り広げている傍から46センチ砲で吹き飛ばされていく無間地獄と化した沖縄本島を救済する方法など、ない。
この物語はフィクションであり、実在の人名・地名・組織名・団体等とは一切関係ありません。




