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14.陸海空決戦――反撃開始――

 一方、東京都内では朝日が昇ると同時に、幽鬼と生者の軍勢が激突した。

 陸上自衛隊の防衛線を圧迫する幽鬼側の正面兵力は、30万を優に超えており、東京湾沿岸にはさらに同数以上の予備戦力が控えている。陸上自衛隊の全戦力が16万を下回ることを考えれば、これは驚異的物量と言うほかない。


 一方の陸上自衛隊は、まず板橋区や北区、荒川区に第1師団第1普通科連隊、第32普通科連隊(埼玉県さいたま市)を展開させ、荒川以北への敵侵入を阻止する構えをとった。

 さらに東京西部には日本精強を誇る富士教導団が集結、千葉県北西部には第1空挺団と、夜半に合流を果たした第12旅団(群馬県榛東村)が防衛線を張っている。

 こちらは量では人外悪鬼に劣るものの、質では圧倒的に優れている。


 東京都新宿区や渋谷区では陸上自衛隊戦車教導隊と、帝国陸軍戦車部隊が出会い頭の遭遇戦を幾度も繰り広げたが、勝利は常に陸自戦車の側にあった。相手へ先に命中弾を浴びせることが出来たのは常に陸自戦車であり、装甲の薄い帝国陸軍戦車は常に一撃で沈黙した。

 一方の帝国陸軍の主力、97式中戦車の57mm戦車砲、あるいは新砲塔の47mm戦車砲では、陸自戦車の中で最も防御力の劣る74式戦車の装甲さえ貫徹することは出来ない。太平洋戦争の再現よろしく、爆装した97式中戦車が対戦車特攻を試みる一幕もあったが、陸自側の正確無比の射撃により容易く阻止されてしまう。


 戦車戦のみならず、夜間の戦域移動と最低限の補給に成功した陸上自衛隊の正面装備は、その戦闘力を遺憾なく発揮し、半世紀前の旧式兵器を鎧袖一触で撃破していく。


 だがしかしそれでも陸上自衛隊東部方面隊は、幽鬼の群れを攻めきれずにいた。

 東京湾には現在も戦艦長門をはじめとする帝国海軍大小艦艇が遊弋しており、下手に臨海部へと進出すれば、艦砲射撃の格好の的となる。また戦艦長門があと何発、核砲弾を有しているかは全く不明である以上、下手に攻勢に出るのは危険であった。


「高層建造物の立ち並ぶ東京都心では、特科の活躍の場はないか」

「残念ながら。市街地に火力が吸収され、敵部隊に打撃を与えることは出来そうもありません」


 この2日目以降の陸戦で、陸上自衛隊東部方面総監部の頭を悩ませたのは、絶大な火力を誇る特科部隊の運用面であった。高層建造物が林立する東京都内への砲撃は、目標に届く前に無人のビル街を破壊するだけの結果に終わることは目に見えている。MLRSや155mmりゅう弾砲による大火力の制圧射撃は魅力的であったが、東部方面総監部の幕僚たちは結局、諦めざるをえなかった。

 また特科部隊の火力を用いることには、それ以外の問題点もある。


「我々の反撃による民間資産への被害は、最小限に抑えるべきです。下手をすれば天文学的な補償額が必要になります」

「補償金を捻出するのは俺たちじゃあない。……と、言いたいところだが、我々は独自判断で防衛出動をしているわけで、このケースはいったいどうなるんだろうな」


 端的に言えば、補償問題である。

 武力攻撃に対して自衛隊が防衛出動し、自衛隊が民間の土地を使用し、民間資産を収用した場合には、都道府県がその損失を補償することになっている。また自衛隊が武力を行使し、民間資産に損失を与えた場合については、自衛隊法には補償の規定がない――とはいえ、まったくの一銭も補償がなされないということはないだろう。

 つまり、だ。特科部隊の大火力で東京都心を攻撃することは、戦後にまずい事態――天文学的額の補償金の発生を引き起こす可能性がないとは言えなかった。


 敵武装勢力の攻撃による民間資産の損失については、知らぬ存ぜぬで通すことも出来ないことはないだろうが、陸上自衛隊特科部隊が派手にやれば、砲撃を受けて破壊された民間資産の主は補償を求めて、訴訟を起こすであろうことは間違いないだろう。

 正規軍に匹敵する武装勢力による武力攻撃、陸海空自衛隊の出動、東京都心を戦場にした戦闘――前例がない未曾有の事態であるために、補償問題はどう転ぶか分からない。

 無制限の破壊活動が可能な敵武装勢力に対して、自衛隊に課せられている制約は実に多かった。

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