序章
大切なものは突如として現れそして崩れ去り消えて行く。
小さなその繰り返しが幾度となく繰り返され、やがて大きなそれがやって来てまた小さくなる。
それはまるで__ウミノナミ__のように。
いつからだろう同じ夢を何度も何度も見るのだ。
それは海岸沿いに立つ一人の女の子がこっちを向いて笑っている姿だ。
そして僕はいつも話しかけようと近ずくが僕らの距離は縮まらない、そして少女は崩れ去る。
ふと目を覚ます。
高校一年の初夏。
「また同じ夢か」
そっと呟く。
僕は小中と物静かで活発ではない部類の男の子であった。
特段問題も起こさず。
異性との交流も持たず。
親はそんな僕を見て安心し信頼してくれた。
僕もその現場に納得し、この日常が続いて行くのだろうと思っていた。
しかし、その幻想はすぐに崩れ去った。
太陽が眩しく、木々の緑が萌える季節。
ザワザワとした教室。
ガラガラと音を立て開かれる扉。
静かにしろよーと言いながら入ってくる担任の教師。
いつもと同じ風景だ。
しかしこの後がいつもとは違っていた。
「今日は転校生を紹介する」
担任の教師はそういい転校生を教室に入れる。
その時僕はハッとした。
「東京からの転校生、海音寺 波子さんだ。海音寺はまだ香川に来てあまり時が経っておらず文化などの面でわからないことが多々あると思う。みんなでフォローするように。」
「よろしくお願いします。」
海音寺が言う。
「では海音寺は山本の隣に着席するように。」
山本というのは僕の名前だ。
などということは今はどうでもいい。
この女の子が僕の夢に長年で続けて来た女の子なのだ。
「よろしくね、山本君。」
と言いながら海音寺は着席した。
戸惑っている僕を横目に、海音寺はこうつぶやいた。
「やっと会えたね。」
と。




