トイ月イヌ日
マウらの出発は午後と聞き、午前中はシドウとミナギの家族に会ってきた。
シドウには妻と子がおり、ミナギは両親と共に三人で暮らしていたそうだ。
彼らの家族は、みな無事だった。彼ら自身の健闘のおかげだろう。俺が墓を作る必要はなかった。
二人の勇敢な行動と戦いを伝えると、みな一様に涙を流していた。俺にかけられる言葉はなかった。
午後になってオオイバラを出発。
次は、というかこれでシンへの道中では最後の街になるのだが、ともかくヨウドという名の街である。
ここでマウは、イースで最高位となる枢機卿から対魔王用の武具を賜ることとなる。ヨウドの枢機卿を務める人物は15年前と変わりない。確かツバキという名の、教会務めとは思えないほど陽気なじいさんだ。
勇者の役目とは、つまるところ二つ。
一つは魔王討伐のパーティのリーダーを務めること。
もう一つは、ヨウドにて魔王討伐の刀・マルコガラスを賜ることだ。
極論を言ってしまえば、勇者は戦いに参加する必要もない。後方から指示だけ出していれば良い。だから実際にマルコガラスを使うのも、おそらくはチュウジになるだろう。次点でツネツキか。ともかくマウの番まで回ってくることはないはずだ。
まん丸い円上の世界、ツナード・ルワマ。
魔王はその中心、魔王領シンにいる。
シンはシ海で囲われているため、我々の住むガワからシンへ辿り着くには、このシ海を船で越えねばならない。そういえば、シ海からガワへ流れ込む四つの河へシ海から魔物が運ばれてくるのは、回るツナード・ルワマの遠心力によるものだそうだな。
シ海を越えるためには船が必要だ。
マルコガラスの件は正直どうでも良い。あのじいさんの所へ行って受け取って終わりだ。
しかし、勇者一行がシ海を越えられるほど巨大な船ともなれば、造船には時間がかかるし、運搬の手間もかなりのものだ。
15年前と同様であればシ海近くのキャンプ地に臨時の造船所が設置されているはずなのだが、王の手配は済んでいるのだろうか。出発前に聞いておけば良かったな。
……よく考えてみれば、王もマウの方には何か伝えているんじゃないか? ツネツキは夜警のために起きているだろう。聞いてみるか。
聞いてみた。やはりマウには伝えていたらしい。15年前と同じく、キャンプ地を用意しているとのことだ。
造船には取りかかっているが、到着時に船が完成しているかどうかは不明。
とはいえ、さすがに王の決めた期限には間に合うだろうから、その点は心配いらないだろう。あとは、俺が乗る船の調達だな。
日記に戻ろう。今日はオオイバラとヨウドを繋ぐ街道を4割ほど進んだ。目立ったトラブルもなかった。
マウ一行の討伐した魔物は、リザードマンが6体に、ナーガが2体、スライムが20体ほどだ。
オオイバラの件で経験値を積んだのか、いずれも難なく倒した。戦闘に関してはもはや俺の助けはいらないのかもしれないな。
ワンダのマナは切れていないかと問えば「記録魔具も残ってるしヨウドまではもつと思うよ」とのことだった。
しかし、まだまだ懸念点は山積みだ。
眠れるうちに眠っておこう。