トイ月イヘ日
それにしても驚いた。選択肢などなかったようなものだが、それでも思わずにはいられない。俺の人選は間違っていなかったのだ。
順を追って書こう。
今朝はネズミの叫び声を耳にして目覚めた。
茂みをかき分け覗くと、マウ一行が土砂を前にして立ち尽くしていた。
俺の仕業ではあるが、マウはそれを知らない。どうしてこんなタイミングで事故が起こるのだろうと己の不運を呪っていたに違いない。
しばらく眺めていたが、半刻ほどして諦めがついたのか、マウの指示で一行はやって来た道を戻り始めた。シン方面へ向かう道は二つ。山道と、シロ河沿いのイース本街道だけだ。俺が潰してしまったから、マウ達は街道を行く他ない。
イース城下町はツナード・ルワマ界の端にあるから、中心のシンに辿り着くにはそこそこの時間がかかる(マウ一行は二頭立ての馬車を使っている)。街道を進むのがシンへ向かう最短ルートではあるので、悪い選択ではないだろう。
マウ一行の後を付け(もちろん向こうからはまったく視界に入らないほどの距離は取っていた)、山道と街道との分かれ道まで辿り着いた時だった。遠聴玉から届く声がふいに大きくなった。
「山道を潰したのおっさんだろ?」
ツネツキに、気付かれていたのだ。
俺が盗聴を行っていること、山道を潰したこと、そして四人の後を追っていること。全て知られていた。
俺の何が悪かったのか、何故気付かれたのかまではわからなかった。教えてくれなかった。そもそも向こうには送手側の遠聴玉しかない。こちらは受手側の遠聴玉だ。一方的に、ツネツキの推理を聞く他ない。全て当たっていた。
しかし幸いにも、ツネツキは彼女の独断で俺への追求を行っていた。
彼女が欲深い人物であることが功を奏したのだろう。ツネツキは金を要求してきた。俺の数ヶ月分の収入額。それで俺の行動を全て他の皆には黙っているとのことだった。
ツネツキはさらに「断るはずはないよねえ」と続けたが、まさしくその通りである。
山道のショックが尾を引いていたのか、街道に入ってすぐにある無人の小屋で、マウは本日の旅路を終わりとした。俺はそこから数百メートル離れた林で野宿だ。
ツネツキから日付の変わり目に小屋を訪れるよう指示を受けたので行ってみれば、俺の返事が欲しいとのこと。もちろんイエスと返した。
むしろ金額を上乗せするから情報を横流ししてくれるかと頼むと、ツネツキの返答は「金がもらえるなら断る理由はないよ」。本当に助かった。
マウ一行の夜間の見張りはツネツキが行うと言っていた。安心だ。
とはいえ、いざという時にすぐさま駆けつけられるよう、遠聴玉を耳元に置いて眠ることにする。




