トイ月イニ日
マウは今日も早朝から出かけていった。
俺が兵を一人見繕ってきたと告げたのが良くなかったらしい。父に迷惑をかけてはならないと、心優しい娘は一層の努力を決めたようだった。
マウの苦労を減らすためにも早く仲間を見つけてやらなければとは思うのだが。そもそも、王から告げられた出発予定日は明日に迫っている。このままではまずい。
俺はかつての仲間を頼ることにした。パーティの魔法使いを務めていた女が、今は宿屋を経営している。
人は変わるものだ。あの頃の彼女を知っている俺からすると、宿屋の女将なんぞで満足しているのが信じられない。手遊びに炎玉で勇者の髪を燃やし笑っていたような女だ。
久しぶりに顔を合わせると「あら、マウちゃんは元気?」などと言ってきた。本当に落ち着いたものである。
手短に近況を報告し合うと、本題に入った。娘の仲間が欲しい、心当たりはないか。
女将は返した。「昨日から行商人がうちに泊まってるよ。あれはどうかね。ノーストから船で渡ってきたらしいが」。
なるほど、シロ河を船で渡ったとなれば逸材であった。今のシロ河は魔物の巣と化している。船を使うのならば、途中で無数の魔物と戦わなければならない。
さらに「女か」と問えば「そ、珍しいだろ、女だよ」と返してきたので、申し分なかった。
女将に別れを告げて市場へと出ると、女はすぐに見つかった。女将から特徴を聞いていたし、なにより装飾付きの厚手の外套が目立った。
女は名をツネツキといった。目が細く、にやにやとした笑みなどは狐を思わせた。
「魔王を倒す旅に出てほしい、どうせ旅をするのならばどこへ向かおうが同じだろう」と言ってみると「同じなわけないよねえ」と返された。我ながら、これはさすがに乱暴すぎたと思う。
しばらく話してみて、ツネツキはかなり強欲な女であることがわかった。初っ端から「おっさんの話を1時間聞いてやるから千イェンよこしなよ」と言ってきたのにはまいった。
ただ、初めこそ渋っていたツネツキではあるが、次第に、勇者のパーティに入ること自体はやぶさかではないと言い始めた。「普段の私なら応じないんだけどねえ。おっさんがあまりにも必死だから」との付け足し。しかし、そのためにはやはり金が必要とのことだった。
しばらく粘って交渉してみたものの100万イェンが限界だった。魔王を倒すまで付き合って100万イェン。やばくなったら逃げることの条件付き。
100万イェンといったら、親子で5年は遊んで暮らせる金だ。俺とてそこそこの蓄えはあるが、そこまでは出せない。
俺は即座に王を頼った。チュウジを呼び出して王に伝言を頼むと、夕方頃に返答があった。
「金を出す、ただし何があろうと100万イェンまでだ」。甘い王で助かる。
ツネツキに出発は明日の正午であることを告げ、俺は再び宿屋へと向かった。まだ仲間の数が足りなかったのだ。
女将へ他に心当たりがないかと問えば、少し思案した後に「占い婆の孫娘は天才だよ。まだ若いけどね」と返された。
占い婆の孫娘。あいつの認める相手ならば相当なものだろう。俺は心を決めた。
家に帰るとマウが暗い顔をしていた。ツネツキの件を話すと複雑そうな表情に変わった。嬉しくもあり、俺へさらに迷惑をかけてしまったと申し訳なくも思っているのだろう。
だが、マウの心情を慮っている暇はない。占い婆の娘を仲間に引き込むのだ。
決行は深夜。まずは仮眠である。