トイ月イハ日
早朝、仲間を探しに出かけるマウを見送った。
一人では魔王は倒せない。旅立ちの身支度をするのにも、面子を揃えないことには始まらない。装備を見繕うことすらできやしないのだ。
90年前まで記録を遡ると、勇者のパーティは4名か5名で構成されていることがわかる。シ海を渡る船にも乗員制限があるから、そのくらいが妥当だろうと思う。
とはいえ、少しでも戦力は多い方が良い。5名は集めたいところだ。
マウに腕の立つ友人がいたような覚えはなかったので、仲間は全て俺が集めるつもりだった。
朝食を済ませると、俺もマウに続いて家を出た。
後からわかったことだが、マウは酒場に向かっていたとのことだった。
それでは駄目だ。昼間から酒場にいるような連中は、無職でアル中の親父ばかりだ。なにより、男だらけのパーティではマウの貞操が危ない。
昨日の今日ではあるが、俺はイース城へと向かった。
双子の門番を3時間ほど「王へ面会させろ」と怒鳴りつけていると、騒ぎを聞きつけたのか、門が開いて昨日の衛兵が現れた。
「今回だけだ」と言われて謁見の間へ通される。王の顔は些か昨日よりもやつれて見えた。声に出して言ってみると、「お前の顔を見たからだ」と返された。皮肉が効いている。
俺の娘に勇者になるよう命じたのは王なのだから王には兵を貸す義務がある、できれば女が望ましい。
そう言ってやると、王は意外にも「構わない」と即答した。しかしその後で「ただし」と付け足される。
曰く、『増加する魔物に対抗するためできるだけ兵の数は減らしたくない、貸せる兵は一人だけ』『役職持ちは駄目』『イースの兵に女はいない』『その代わりに貸す兵はお前が選んでも良い』とのことだった。条件が多い。
とはいえ、兵の実力など俺は知らない。そもそも周りにいる衛兵連中だって、10人がかりで俺の急襲を止められなかったのだから大して期待はできない。
どれでも同じようなものかと思い、「ネズミの顔をした伝令を呼んでくれ」と頼んだ。
10数分経って現れたネズミに「剣の心得はあるか」と問うと「一応は習ったっすよ」などとふざけた物言いで言葉を返すので頭頂部を殴りつけてやった。
王が「それで良いのか」と慈悲のこもった声で問いかけてきたが、俺とて不安は強まっていた。稽古場を借りて試しに木刀で見合ってみることにした。
5分でネズミは音を上げたが、それで手を止めるほど甘くはない。俺は構わず木刀を握り続けた。そのまま1時間は打ち込んだかというところでネズミが倒れてしまったので、それで終いになった。
予想通り性根の腐った男ではあったものの、筋はそう悪くない。攻めの度胸はないし踏み込みも甘いが、受けのセンスは見受けられた。
王に「これで良い」と告げ、俺は城を去った。
なお、ネズミの名はチュウジというらしかった。名前からしてやはりネズミである。
マウは俺よりも数時間遅く帰ってきた。1日の成果は得られなかったとのことだった。
明日も仲間捜しは継続だ。