トイ月ロト日
日記だけは書いておく。
記録として残しておかなければならない。
それが俺の義務だ。
目覚めた俺の目の前にいたのは、名も知らぬ僧侶の集団だった。
マウでもツネツキでもワンダでもネズミでもない。
後から知ったことだが、彼らはノーストからやって来た医療班だった。代々、ノーストからはシンへ医療班を寄こす手はずになっているのだ。
眠りにつく前から視界に入る景色は変わっていなかった。俺がいたのは、船底だ。
連中が船の中にいるということは、シンへ到着したということだった。
俺は僧侶たちの制止も聞かず、船内にマウ一行の姿を捜した。
しかし、彼女たちはどこにも見当たらなかった。
船央甲板へ出ると、空は暗く、船首の先にはおぼろげにシンの大地が広がっていた。
僧侶のリーダーはミッカと名乗った。
ミッカらは、シンでマウ一行と遭遇したのだといった。それで、彼女らから「船で一般人が眠っているから保護してほしい」と伝えられたのだと。今から3時間ほど前の話だった。
俺は、マウに、騙されていたのだ。
マウは気付いていた。俺が船の中まで付いてきていたことに。
きっとわかったのは船に乗った後のことだろう。でなければ、マウはそもそも俺をガワへ残すよう動いたはずだ。船に乗ることを許したりはしない。
船底にはマウからの書き置きも残されていた。
「大丈夫だよ、お父さん。私たちだけでできるよ」
続けてツネツキから。
「ごめん、マウに気付かれた。パーティの一員として勇者の言葉に従うよ」
まさかそこまでマウに知られていたわけではないだろうに、書き置きの横にはご丁寧に遠聴玉が置かれていた。送手側も受手側も両方だ。これでマウ一行と連絡をとる手段は失われた。
私たちだけでできる?
年端もいかない娘がよくほざいたものだ。
勇者の使命を果たすためにはどんなものでも利用しろよ。父親でもなんでも。
魔王が討伐できなければ人間はみな滅ぶのだ。
重責が、勇者の肩には乗っかっている。
お前にそれがわかっているのか、マウ。
――とかなんとかそんな文句を書いてはみたが、馬鹿だな俺は。
こんなもの全て嘘っぱちだ。
俺の想いは一つ。
マウを死なせない。
これ一つだけだ。
お前が俺を守るんじゃない。俺がお前を守るのだ、マウ。
俺は父親だぞ。わかっているのか、なあ、マウよ。
あの書き置きで俺が納得して船に残ると思ったか。
残念だな。そんなわけがなかろう。父の愛を舐めるなよ。
ミッカには「一緒に付いていく」と言われたが、万が一、俺と行動を共にして死んでしまったら、マウらの命を誰が救うのだと返した。俺には、オオイバラでの前科もあるのだから。
携帯食料を囓り、水を飲んだ。
刀、短刀、爆弾、薬草、準備は全て終えている。
ツネツキに残された遠聴玉はミッカに手渡した。
これで終いだ。さあ行こう。




