第四話 ファウンデーションボール
「グゥッ!」
右腕に激痛がはしる。
僕は、奥歯を食いしばり、悲鳴がもれるのをふせぐ。
激痛は一瞬で去っていったが、プロテクトスーツのロック機構が働き、右腕の間接が完全に固定されてしまう。つまり、これから十分間、僕の利き腕は完全に封印されてしまったというわけだ。
僕は、右手ににぎっていた剣をはなす。身体を回転させ、左手でその柄をにぎった。
「ボールはどこだ!?」
上下左右、三六〇度ひろがっている空間に眼をはしらせる。
いた!
一五メートルぐらいむこうに、赤いホーネットの紋章が描かれたプロテクトスーツの姿がみえる。
まちがいない、テッドだ。
ヘルメットの中でにやついているであろうニキビ面を思いおこすと、僕の胸の中で青白い炎がもえたつ。
僕のチームで、奴へのインターセプトコースに乗っているのはだれだ?
バイザーに、チームメンバーの座標が表示される。
アレッサンドロ、ブロニスワフ、ヤーコフ、ワンダ、ラジュー……。
僕は、目の前が真っ暗になった。
だめだ、まるでお話しにならない。(見たことはないが)水に放り込んだモグラだって、もうすこしまともに動くにちがいない。
みな、やたらに推進剤を消費して、ただただテッドを追いかけている。シミュレーションで、ホーマン軌道について散々レクチャーしたにもかかわらずだ!
だが、人のことはいえない。
僕だって、ボールをキープすることに集中しすぎて、敵ディフェンダーの攻撃に対処できなかった。その後の対応も、まぬけとしかいいようがない。剣なんか、ほっとけばよかったんだ。
僕は、ののしりの言葉を胸にしまうと、スラスターを全開にして、敵チームのフィールドへとむかった。
だいたい僕は、この「ファウンデーションボール」というゲームが好きではない。
反吐がでそうな思いをしてまでこれをやっているのは、このゲームが全生徒に課せられた必須科目であり、卒業にはぜったいに必要な単位だからだ。
ステーション回転軸に設けられた無重量状態の直径三〇〇メートルの球形フィールド。そこで、赤、青、一二名ずつの二チームが、高機動するボールを奪い合い、剣をふるって相手を攻撃しあう――なんていう競技のどこがおもしろいんだ!?
だが、現実には、老いも若きも、軌道都市の住人ぜんぶが、このゲームに熱中している。三歳以上の就学者は、すべて授業としてゲームへの参加が義務づけられているのだ。
ファウンデーションボールのルールは簡単だ。
赤、青の二チームが、スラスターを内蔵しランダムに軌道をかえて飛びまわるボールを奪いあう。
ボールを手にして側は、相手チームのフィールド内に三カ所設けられたゴールのどれかに、それをたたき込めば得点できる。
守る側は、ボールを手にしている選手を、あらゆる手段をつかって阻止する。
このあらゆる手段、という部分が問題だ。
ゲーム参加者は、プロテクトスーツという機械でできたゴリラの皮のような簡易宇宙服を身に着け、電磁ロッド――僕たちは剣とよんでいるが――を手にする。
この電磁ロッドで相手のプロテクトスーツをはげしく打つと、スーツからの電気刺激でその箇所にはげしい痛みがはしる。同時に、打たれた箇所は、ペナルティとして、その打撃強度におうじて一定時間、制限がくわえられる。手足なら間接が固定されて動かせないし、頭ならバイザーが遮光モードにかわり外が見えなくなる。胸や腹、背中の場合は、悲惨だ。重要箇所へのダメージということで、スーツの姿勢制御回路にでたらめな信号がおくられ、全スラスターがむちゃくちゃな噴射をはじめる。結果、軸のぶれたコマのように高速回転し、ついには隔壁に激突する。もちろん、ヘルメットの中は、嘔吐した吐瀉物でぐちゃぐちゃだ。
ファウンデーションボール自体は、1チーム12名のプレイヤーを攻撃、防御、斥候、囮などの各パートにどう振り分けるか。様々なフォーメーションをどう駆使するか。複雑な要素がひとつになった高度に戦略的なゲームだ。
それは認める。
けれど剣を装備して、それで殴りあうなんていうのは、とてもスポーツとは思えない。
僕は、ボールを持っている敵チームのリーダー、ニキビ面のテッドにようやく追いついた。いや、正確には、相手が待ちかまえていたのだということにすぐに気づく。
テッドは、バイザーの下でニヤリと笑うと、手にしたボールを僕に投げる。右腕が固定されている僕は、左手の剣をはなして、ボールを受け取った。
だが、あまりに急なことだったので、スラスターを噴射して慣性を打ち消す動作が間に合わない。
僕はボールを持ったまま、くるくると回転してしまう。
その僕へ、テッドのほか、7、8人の敵チームのプレイヤーが殺到する。手に手に、剣をかかげて――。
ボールを持っているプレイヤーを、どのように攻撃してもかまわない。それがルールだ。
悲鳴を飲みこんでボールを手放そうとするが、身体が回転しているために、うまくできない。
テッドたちは、最小の推進剤の消費で僕に群がると、最大の打撃力をもって、めった打ちにしはじめた。
「グゥッ!?」
灼熱した銛に全身を貫かれるような激痛。くだけるほど奥歯をかみしめたえる。どんな時でも悲鳴なんかあげない。それが僕のプライドを守る最後の一線だと信じて――。
次の瞬間、僕の体は、恐ろしい勢いででたらめな回転をはじめ、隔壁へと飛んでいく。
そして、僕は……。




